▼472▲ ビッグでグレイトでバリバリな完全無欠の心理カウンセラー
「ヴィヴィアン様、エイジン先生と助手のアラン様をお連れしました」
豪華なシャンデリアがぶら下がる白い天井、古代神殿っぽい装飾が浮き彫りにされている白い壁、縦長の窓を覆う光沢を帯びたベージュのカーテン、鳥の足跡の様な模様を散りばめた水色のフカフカ絨毯。
そんな優雅な雰囲気を醸し出している食堂まで、執事のグレゴリーに案内されて二人の客人がやって来ると、中央にある長テーブルの向こうに座っていた黒いドレスの女が立ち上がり、
「よく来てくれたわね。私がリング家の当主、ヴィヴィアン・リングよ」
その美しくも力強い瞳で見据えつつ、ハキハキとした口調で声を掛けた。
「初めまして、私は現在ガル家に雇われております心理カウンセラーのエイジン・フナコシと申し――」
よそいきの丁寧な口調でエイジン先生が愛想よく口上を述べようするが、
「あなたの事はテイタムから聞いてるわ、エイジン先生。こちらに遠慮せず普段通りの言葉で話していいわよ。その方がやり易いでしょう?」
すぐにぴしゃりとヴィヴィアンが遮った。
「んじゃ、お言葉に甘えて。こっちが助手のアラン君で俺がエイジン、二人合わせて『アラジン』です。以後、『完全無欠の心理カウンセラー』とお呼びください」
ぴしゃりと遮られても特に動じることなく、すぐに態度をガラッと変えてしょうもない事を言い出すエイジン先生。
「何かの冗談なんでしょうけど、どこで笑ったらいいのか分からないわ」
お笑いバトルの大物ベテラン芸人審査員のごとく、これをバッサリ斬るヴィヴィアン。
「よく言われます。気にしないでください。俺の世界の挨拶みたいなもんなんで」
大物相手に臆する事無く、いつものへらず口を叩くエイジン先生。その横で、そこまで図太くなれないアラン君が緊張気味に、
「は、初めまして。わ、私はエイジン先生の助手でアラ」
「堅苦しい挨拶は抜きよ、アラン。二人共座って。話は夕食を取りながらしましょう」
おずおずと切り出すも、やはり最後まで言わせずマイペースで事を運ぶ女当主。
「ゴチになります。アラン君も気楽にするといい」
マイペースな事にかけては負けないエイジン先生が、ガチガチなアラン君をテーブルに着くよう促し、
「さて、テイタムお嬢ちゃんから聞いてるなら、もう自己紹介の必要もないし、早速お話を伺いましょうか。要は息子さんのブランドン君に娘をつくらせりゃいいんですね?」
自身もヴィヴィアンの真正面の席に座り、身も蓋も無い事を言い放った。
ヴィヴィアンも、ふふ、と軽く笑って着席し、
「テイタムの言った通り、中々愉快な人の様ね」
皮肉っぽくはあるがそれほど毒は無く、純粋に面白がっている感じで言う。
「お褒めに与りまして光栄の至り。テイタムお嬢ちゃんは俺について他に何か言ってました?」
「『ふざけている様に見えて抜け目のない策士』とも言ってたわ」
「それはどちらかと言うと、テイタムお嬢ちゃんの親父さんの方かも」
「アレは『抜け目のない』と言うより『女に見境のない』と言った方が正しいわね」
今度はマジで不機嫌な表情になるヴィヴィアン。「アレ」ことライアンにしつこく言い寄られたのがよっぽど不快だったらしい。
「ま、その見境のない親父のおかげで、こうして大口の仕事を回してもらえた訳で」
「その仕事について単刀直入にお伺いするわ、エイジン先生」
「何でしょう?」
「あなたは今回の件で一体何を企んでいるのかしら?」
テーブルに片肘を突き、その手の上にアゴを乗せ、名家の当主にあるまじきお行儀の悪い姿勢になってエイジンに問い掛けるヴィヴィアン。
エイジン先生は慌てず騒がず椅子の背に寄りかかって寛ぎつつ、
「逆にお聞きしましょうか、ヴィヴィアン様。あなたは今回の件で一体何を企んでいらっしゃる?」
質問を質問で返すと言う無礼をこの大物相手にやってのけた。
そしてこの二人の不穏なやりとりを見ながら、ちょっと不安になるいつものアラン君。




