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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽おまけ4△

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470/556

▼470▲ ヨットスクールに問題児を放り込む感覚で怪物に花嫁を斡旋する悪魔

 途中何度か休憩を挟み、その度にヤンキー三人娘が運転を交代して走る胴長リムジンが、リング家の森の入口に到着したのは夜の八時過ぎだった。


 鬱蒼と木々が生い茂る中へ舗装された一本道が吸い込まれる様に続く、どことなく心霊スポットを思わせる不気味な暗闇の中、ぽつんと明かりが灯る守衛所の前で車が止まり、


「降りな。外部の人間は、ここでボディーチェックと荷物検査を受ける事になってるんだ」

 

 運転していたジト目のタルラが後を振り返ってそう言い渡すと、


「アタシら三人で念入りにボディーチェックしてやるぜ」


「一応規則だからな。なーに、悪いようにはしねえよ」


 ギョロ目のベティとギロ目のジーンもこれに同調したが、もちろんこのヤンキー三人娘の熱い視線はエイジン先生を通り越し、怯えるアラン君ただ一人に向けられていた。


「本当にそんな規則あるのか? 今思い付いたんじゃないのか?」


 透明人間的扱いを受けつつも、飄々とツッコむ事を忘れないエイジン先生。


「あるんだよ! リング家ってのは特別な所だからな!」

「魔法が使えない分、外部からの武器の持ち込みに厳しいんだ」

「安心しな。アラン君を念入りにやる分、お前は特別にボディーチェックを免除してやる」


 口ではもっともらしい事を言いつつ、お楽しみの邪魔すんじゃねえと言わんばかりの興奮した様子で言い返すタルラ、ベティ、ジーン。


 皆で車から降り、怯えるアラン君に対しヤンキー三人娘がよってたかってボディーチェックという名のセクハラ行為に及ぼうとした正にその時、


「その客人にはボディーチェックも荷物検査も無用、と通達されていたはずだが。聞いていなかったのかい、君達?」


 穏やかな声がヤンキー三人娘の動きを、ピタッ、と止めた。


「げ、てめえか!」


 ギョロ目のベティがイタズラしているのを見つかった猫の様な表情で振り返ると、


「ああ、今はちょうど私の当番の時間だ」


 いつの間にか守衛と思しき男が背後に立っていた。


 シンプルな紺の制服に身を包んだその男は、年の頃は五十代半ば、中背のずんぐりとした体格で、白髪混じりの髪をきれいに後ろに撫でつけ、広い額を持つ丸い顔に人懐っこそうな笑みを浮かべてはいるが、その大きく見開いた青い目の強烈なインパクトのせいで、むしろサイコパスな感じを与えている。


「い、いいだろ! 念の為だ!」


 ジト目のタルラがボディーチェックの必要性を主張するも、


「駄目だ。大切な客人に失礼があってはならない、と、当主から念を押されている。彼らはこのまま通したまえ」


 この守衛の眼力には敵わない様子。


「せめてこっちのイケメンだけでも! そっちの奴はどうでもいいから!」


 下心丸出しで食い下がるギロ目のジーンも、


「当主の命に逆らうのかね?」


 この穏やかな一言で、守衛はぴしゃりと押さえつけてしまう。


 ヤンキー三人娘が渋々アラン君を解放するのを見届けてから、守衛は、


「ボディーチェックをする必要があるとしたら、むしろこちらの方だと思うがね」


 その強烈なインパクトを持つ目をエイジン先生の方に向けた。


「何でそう思う?」


 眼力に気押される事なく、飄々と尋ねるエイジン先生。


「君からはどこか偽物っぽい雰囲気を感じる。常に意図を隠して何かを企んでいる様な――」


 穏やかな声でそう言いかけてから、


「いや、これは失礼。リング家にようこそ、エイジン・フナコシさん。どうぞ、このままお通りくださって結構です。そちらのアラン・ドロップさんも」


 守衛はおざなりな言葉を述べた後、守衛所に戻って行った。


 再び五人が車に乗り込み、その場を後にすると、


「変わったオッサンだな。あんたらが大人しく従ってる所を見ると、結構偉い人なのか?」


 エイジン先生は守衛について三人娘に尋ねた。


「一応、警備の中じゃ一番偉いな。だが、問題はそこじゃねえ」


「あいつ、マジヤバいんだよ。三人の銀行強盗を逆に一人で半殺しにして、ムショに入れられそうになった所を脱走してここに逃げて来たんだ」


「アタシらも極力あの狂人には関わりたくないのさ。お前も気を付けた方がいいぜ」


 真顔になって答える、タルラ、ベティ、ジーン。


「何かえらくビビってるな。ちなみにあのオッサンの名前は?」


「アンソニー・ホイップだ。結構大きなニュースになったから、聞いた事位あるだろ?」


 ギョロ目のベティがそう問うも、


「知らん。さっきも言ったが、俺はこの世界に来てまだ日が浅いんだ。それより、アンソニーは独身か?」


「結婚してるって話は聞かねえな。多分独身だろう」

「嫁さんどころか身寄りは一人もいないらしいぜ」

「何だ? 今度は未亡人の女当主にアンソニーをあてがおうってのか?」


「いや、あんたらの内の誰かをアンソニーと結婚させようかなと思って」


「ふざけんな、てめえ!」

「なんでアタシらがあの怪物のいけにえにされなくちゃならねえんだよ!」

「人を何だと思ってるんだ!」


「案外、幸せになれるかもよ? まあ、騙されたと思って」


「騙す気満々だろ、お前!」

「悪魔かてめえは!」

「人の人生を弄ぶんじゃねえ!」


 アラン君にセクハラするのを阻止された事の腹いせもあってか、エイジン先生の軽口に激しく突っかかるヤンキー三人娘。

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