▼467▲ 乙女心を考察して悪用する男
クイズ番組におけるボケ解答枠を地で行くギョロ目のベティとジト目のタルラからまともな答えを引き出す事を諦めた司会進行役のエイジン先生は、
「そもそもブランドン君はあんたらに、『葬式の参列者』みたいな表情を向けてたんじゃない」
粛々と正解発表に移行する。
「『葬式の参列者』じゃなきゃ何だってんだよ」
「『生理が重い日の女』か? 男だけどな!」
臆面も無く下ネタを口に出して笑い合うベティとタルラ。危な過ぎてゴールデンタイムでは使えないタイプ。
エイジン先生は真顔で首を横に振り、
「正解は、『休日の朝にぐっすり寝てた所をしつこいチャイムで起こされたので嫌々起きて玄関のドアを開けたら新興宗教の勧誘だった』みたいな表情でした」
「長えよ!」
「分かるかそんなの!」
ボケをボケで返してボケ担当の二人から逆に突っ込まれる展開に持ち込んだ。
「まあ、想像してみ。そんな奴がドアの向こうに立ってたら、あんたらどういう対応をする?」
「『帰れ、二度と来るな』って言って、ドアを閉めるね」
「同じく。もしもう一度チャイム鳴らしやがったら、ナイフをそいつの首に突き付けてやる」
「はい、それ! あんたらのその対応こそがブランドン君の本音だ!」
「ざけんな、コラ!」
「アタシらを何だと思ってんだ!」
「要は、『自分の利益の為に他人の迷惑を顧みず押しかける図々しい輩が来た』って事だよ。実際そうだろ? 特に愛がある訳でもなく、相手に何のメリットもなく、ただ人生の一発逆転を狙ってブランドン君を利用しようとした訳だから」
「政略結婚に愛なんかいらねえだろ!」
「向こうだってこんな美女と結婚出来て、ギブアンドテイクじゃねえか!」
「『ギブアンドテイク』? どっちかって言うと、『お前の物はアタシの物、アタシの物もアタシの物』って感じの一方的な略奪なんだが」
「喧嘩売るなら買うぞ、コラ」
「どうやら本気で死にてえらしいな、てめえ」
「おっと、武器を出す前によく考えな。ブランドン君は今十七歳だ」
「ああ、ヤリたい盛りだな」
「ヤらしてくれりゃ誰でもいいって年頃だ」
「確かにその通りだが、その年頃の男の子にはもう一つ、単純にヤるとかヤらないとかじゃなく、もっとロマンチックな理想の恋愛に憧れる部分も結構大きい。そんな思春期真っ盛りのロマンチストに、下品なヤンキー女が下品な作り笑顔を浮かべて、『なあ、スケベしようや』とか言って迫ったら、そりゃ引くわ」
「言ってねえよ!」
「勝手に捏造するな! それと誰が下品なヤンキー女だ、オラ!」
「そもそもブランドン君は数ある花嫁候補の中から好きに選べる立場なんだぜ? 気に入らなければ代わりはいくらでもいるんだし、チェンジし放題だ。どんな女が好みなのかを知らずに迫った所で、選ばれる可能性は低いに決まってる」
「人をデリヘル嬢みたいに言うんじゃねえ」
「じゃあ、ブランドンの好みの女ってのはどんなんだよ」
「それを俺がこれから調べる訳だ。ま、少なくとも普段からチンピラみたいな物腰で、カッとなるとすぐに物騒な武器を出す様な女は論外だろうね」
「チンピラだと?」
「さっきも言ったが、アタシらはいいとこのお嬢様だぜ?」
「かつてはそうだったかも知れないが、今や誰もアンタらを見て『いいとこのお嬢様』だとは思わねえよ。いいか、日頃の言動ってのは徐々に人を変えて行くんだ。例えば普段チンピラみたいな言動をしてる奴は、本当に容貌がチンピラみたいになって行く。論より証拠、鏡で自分の顔を見てみろ。『いいとこのお嬢様』だった頃に比べて、顔が険しく変貌してるから。顔が険しくなると実際の年齢より老けて見える。つまり『不機嫌なババア』っぽくなってる」
「誰が『不機嫌なババア』だ!」
「人をどうこう言える面か、てめえ!」
激しく食ってかかるものの、さっきまでと違って武器を出さなくなったベティとタルラ。
「ま、ささいな事でカッとならない様に心掛ければ、自然と表情も和らいで、『いいとこのお嬢様』と言っても何とか通る位には戻れるかもな。少なくとも今は『わるいとこのヤンキー女』にしか見えん」
エイジン先生がそんな風に二人をおちょくっている間に、一行を乗せた車はサービスエリアに着き、そこでしばらく休憩する事となった。
車から降りてトイレに行く前、男女別々に別れた後、
「ははは、あのヤンキー女共、俺の言った事が気になって、絶対トイレの鏡で自分の顔を念入りにチェックするぜ。どんな化け物みたいな女でも、どこかに『乙女心』ってやつを持ってるからな!」
さもおかしそうにアラン君に言うエイジン先生。
「『乙女心』、ですか」
感心と呆れが混じった表情で、目の前の『乙女心』を悪用する男を見つめるアラン君。




