▼465▲ 婚活を忘れてイケメンを追い回す女
あからさまに「それ以上近寄るな殺すぞ」オーラを発散しているギョロ目のベティとジト目のタルラに配慮してか、少しスペースを空けて座り、
「ま、そうイキり立つな。リング家にだって条件のいいイケメンはいるだろ? アラン君よりそっち狙えよ」
コーラフロートのアイスをスプーンですくって食べながら、馴れ馴れしく話しかけるエイジン先生。
「そんな奴いねーよ! どいつもこいつもシケたオッサンばっか」
「アタシらにだって選ぶ権利ってもんがあるのさ」
偉そうで何様なベティとタルラ。
「御曹司のブランドン君はどうよ? 結構イケメンじゃね? ガタイもいいし、性格もよさげだし。何より上手く口説き落とせば玉の輿だ」
エイジン先生がそう水を向けると、
「あー、アレか……確かに、まあ顔はそこそこだけどよ」
「あいつ暗いんだよ。葬式の参列者みたいにさ。一緒にいると、こっちの気分まで滅入って来る」
困惑顔になり、揃ってブランドンをディスり始めるギョロ目とジト目。
「その様子だと、一応アプローチはしてみたんだな? で、見事に振られたと」
「うっせえな、振られてねーよ! こっちから見限ったんだ!」
「アタシらにだって選ぶ権利はある、って言ったろ? どうにもアレとは相性が合わないのさ」
「まあ、確かに性悪ヤンキー女と真面目な好青年とじゃ釣り合わないか」
「喧嘩売ってんのか、てめえ。言っとくが、アタシらはこれでも良家のお嬢様なんだぜ?」
「お前みたいな庶民とは格が違うんだよ、格が」
「良家の子弟にも一人や二人はどうにも手に負えない問題児がいるもんだが、あんたらもそのクチか。納得」
「何だと!」
「マジ、ブッ殺す!」
拳銃を抜くベティとナイフを出すタルラ。
「あー、今のは俺が悪かった、謝るよ。誰にだって触れて欲しくない心の傷の一つや二つはあるよな」
全く反省していない口調で謝罪と見せかけて煽るエイジン先生。
「知った風な口利くんじゃねえ!」
「言葉には気を付けな。さもないと、あんたの体に傷が付くぜ」
「まあ、落ち着け。察するに、あんたらはブランドン君の嫁候補としてリング家に差し出されたんだろう。だが、それはチャンスでもあった。実家じゃ問題児でも、由緒あるリング家の嫁に収まれば人生一発大逆転。今まで自分を見下してた家族を一気に見返してやれるからな。だから張り切って婚活してみたものの、どうにもブランドン君は真面目で取り付くシマがない」
「う……」
「事情を知ってたのか、てめえ!」
「図星か。ま、ブランドン君は色仕掛けで簡単に落ちるタイプじゃなさそうだもんな。かと言って、リング家の御曹司を強引に押し倒す訳にも行かないし。結果、何の進展もないまま鬱蒼とした森の中で使用人として働き続け、ダラダラと時間だけが過ぎて行く。正に青春の浪費だ」
「余計なお世話だ!」
「アタシらの時間をどう使おうとアタシらの勝手だろ!」
「そこで提案なんだが、あんたら、リング家の花嫁をもう一度目指してみないか? もちろん今の性悪ヤンキー女スタイルじゃダメだが、そこはそれ、俺が参謀になってあんたらをブランドン君好みの女に仕立て上げてやる。どうよ?」
「は? 何言ってんだこいつ」
「お前が参謀だと? 作戦が失敗する予感しかしねえよ」
「俺はこれからブランドン君のカウンセリングに行くんだぜ? 当然、立ち入った個人的な話も出来る。『結婚するならどういう女がイイ?』なんて話もな。立場を利用して、それとなくあんたらを推す事だって出来る。婚活の参謀としちゃあ、かなり優秀な方だと思うんだがね」
このエイジン先生の提案に対し、しばし沈黙した後、
「……本当にそんな事、出来るのか?」
「……嘘じゃないだろうな?」
少し心が揺らいだ様子の二人が、それぞれの武器を懐に収めながら言う。
「出来るかどうかは、あんたらの努力次第だ。どうする、俺と組まないか?」
エサに食い付いた二匹の雑魚をゆっくりと釣り上げにかかるエイジン先生。
そんなエイジン先生の手腕を少し離れた所から見守るアラン君。
そんなアラン君に気付いて、
「やっぱ、いいや。それよりアラン君をアタシらに差し出せよ!」
「こっち来なよ、アラン君。大丈夫、黙ってりゃ彼女にバレねえって!」
釣り上げられる直前に針から逃れる二匹の雑魚。
「いいのか、あんたら。リング家の嫁になれば実家に大威張り出来るんだぞ」
エイジン先生がもう一度釣ろうと試みるも、
「実家よりイケメンだろ!」
「婚活よりイケメンだ!」
美味しい話より怯えるイケメンに食い付く雑魚共だった。