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▼464▲ 全裸にひんむかれて蜂蜜を塗りたくられて一晩森の木に縛り付けられるお仕置き

「すげえなこの車、小型冷凍庫まで付いてるじゃん。お、アイスクリーム発見」


 バーカウンターの端に備え付けられている冷凍庫を勝手に開け、パイントサイズのバニラアイスを勝手に取り出し、コーラフロートを勝手に作り始めるエイジン先生。


 その間もギョロ目のベティとジト目のタルラによるアラン君への度を超えた執拗なスキンシップは続行中。


「へっへっへ、そう怖がるなよ、イケメン君。アタシ達が色々いい事してやるからさ」

「こういうの初めてか? 肩の力抜けよ」


「やめてください! お願いですから!」


 おもてなしというよりは飲み会の罰ゲームで得体の知れない風俗に放り込まれたと言った方が早い哀れなアラン君。


「いっそモーテルに寄って、そこでヤっちまうか?」


 車を運転中のジーンも、職務を中断してこの狂乱に加わりたがっている様子。


「いいねえ! 三人でこのイケメン君マワそーぜ」


 もはや「おもてなし」という建前すら忘れているタルラ。


「あ、そっちのお前はアタシらがモーテルでお楽しみの間、外で木の本数でも数えてろ」


 ソファーの端っこでコーラフロートを悠々と啜るエイジン先生に対し、戦力外通告を出すベティ。


「何そのシベリアの流刑囚」


 一応ツッコんでから、エイジン先生は自分の携帯をおもむろに取り出し、


「とりあえず記念撮影しとくか」


 タルラとベティに挟まれて文字通り嫐られているアラン君の悲惨な姿をしれっと撮影した。


「何勝手に写真撮ってんだ! 画像消せ!」


 ベティが素早く懐から拳銃を抜き、銃口をエイジン先生に向けて怒鳴る。


「はーい、笑って」


 全く気にせず、さらにその拳銃を構えているベティの姿まで撮影するエイジン先生。


「ざけんな、てめえ! マジでぶっ殺すぞ!」


 キレて席を立ち、エイジン先生の方に中腰で移動するベティ。


「言ったはずだよ。『ケガしたくなかったら、アタシ達の指示には素直に従え』と」


 タルラも懐からナイフを取り出しつつ、エイジン先生に迫り来る。


「ははは、忘れたか? 俺はリング家の女当主直々の依頼で、その大事な一人息子をカウンセリングしに行く所なんだぜ」


「だったら何だってんだ、あぁ?」

「カウンセリングだか何だか知らないが、ここじゃアタシらがルールだ」


 エイジン先生の額に拳銃の銃口を突き付けるベティと、喉元にナイフの刃を突き付けるタルラ。


「頭悪いな。俺はあんたらの女当主様が何人もの知り合いに相談しまくって、ようやく紹介してもらえた超有能心理カウンセラー様だぜ? そんな俺にケガでもさせて、今回のカウンセリングの話がおじゃんになってみろ。今までの努力を無にされた女当主様は、あんたらを何のお咎めも無しに許すと思うか?」


 拳銃とナイフを突き付けられた状態で飄々とへらず口を叩くエイジン先生。


「チッ!」


 激しく舌打ちして拳銃を引っ込めるベティ。


「クソッ!」


 忌々しげにナイフを懐に収めるタルラ。


「結構。それと一応言っておくが、そのイケメンことアラン君は彼女持ちだ」


「そりゃそうだろうよ。何しろこれだけの上玉だ」

「彼女がいたって関係ねえよ。何ならその彼女の目の前でヤッてやろうか?」


 挑戦的かつ下品な笑みを浮かべるベティとタルラ。


「いや、その『彼女』ってのがすごくヤバい女でな」


「まさか……『ガル家の狂犬』グレタか?」


 さっと顔色を変えるベティ。


「いや、そのグレタ嬢に格闘を教えてる専属のトレーナーだ。この肩書きだけで、どんだけヤバい女か想像がつくだろ?」


「あの『ガル家の狂犬』のトレーナー……だと?」


 同じく顔色を変えるタルラ。この二人の反応から察するに、『ガル家の狂犬』時代のグレタはよっぽどやらかした様である。


「ちなみに今までアラン君にちょっかい出した女は皆、彼女に土下座させられてる。中には全裸で土下座させられたのもいた」


 エイジン先生によってかなり脚色された説明に、無言で息を呑むベティとタルラ。今二人の頭の中には身長二メートル以上もある筋骨隆々とした鬼神の如き女格闘家がイメージされているに違いない。


「そ、それがどうしたってんだ。ち、ちっとも怖かねーし!」

「そ、そいつが文句言って来たら、か、返り討ちにしてやるぜ!」


 ビビりつつ虚勢を張っているのが丸分かりなギョロ目とジト目。


「ともかく、今後アラン君にはお触り禁止な。二人共、とっとと席に戻れ。アラン君はこっちに来い」

「はい!」


 女二人と入れ替わりにエイジン先生の隣に急いで戻って来るアラン君。正に九死に一生を得たといった感じで、


「助かりました、一時はどうなる事かと」


 心底ほっとしていると、


「よし、アラン君の代わりに俺がもてなされて来る」


 コーラフロートのグラスを持って、ギョロ目とジト目の方へ向かうエイジン先生。


「お前は来なくていい!」

「あっち行け、シッ、シッ!」


 それを激しく拒絶するベティとタルラ。


「安心しろ。性的サービスとか要求したりしないから」


「されてたまるか! このスケベ野郎!」

「スケベ野郎じゃなく、そっちのイケメンを寄こしやがれ!」


「痴女に『スケベ野郎』って言われた」


「誰が痴女だ、コラ!」

「ふざけてっと、血ぃ見るぞ!」


「へっへっへ、俺にケガさせたら、あんたらどんなお仕置きをされるだろうねえ。全裸にひんむかれて蜂蜜を塗りたくられて一晩森の木に縛り付けられたりして。全身に気味の悪い昆虫がたかるたかる」


「つくづくムカつく野郎だな、こいつは」

「客じゃなかったら、こんなへらず口叩く奴はボコボコにして車から放り出してやるんだが」


「はっはっは、こちとら喧嘩はからっきしだが、へらず口で人を煙に巻く事にかけちゃ一級品だぜ!」


「くだらねえ事を威張ってんじゃねえ!」

「てめえ、今回のカウンセリングの仕事が終わったら、タダじゃおかねえからな!」


 そんな風にベティとタルラをおちょくるエイジン先生を見ながら、決して口には出さないが、


「あー、またいつものアレが始まった」


 と言いたげな表情のアラン君。

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