▼461▲ 自殺の名所で彼氏を取り押さえる彼女
男のロマンを追い求めるエロ親父ことライアンと入れ替わりに、金と勇気だけが友達のエセ心理カウンセラーことエイジン先生をリング家に送り込む算段を整え、暇を告げようとするテイタムを、
「せっかくだから、夕食も一緒にどう、テイタム?」
「今晩はプロレスのスーパースターも大好きな『血のしたたるようなステーキ』をご用意していますよ、テイタムお嬢様」
今やすっかり自分達の仲間として受け入れているグレタとイングリッドが引き留める。
「ありがとうございます。それでは、ごちそうになります」
もちろん、快くその誘いに応じるテイタム。
「ちなみに、エイジン先生には無名の下っ端レスラーと同じ待遇のスパゲッティーとコーラをご用意しました」
「いや、流石にそのネタはテイタムお嬢ちゃんには分からないだろ」
イングリッドとエイジン先生とのマニアックなやりとりにも、
「じゃあ、私は涙で味付けしたパンで人生に対するファイトを養います」
どこから知識を得ているのか、テイタムはしっかり食い付いて来る。
そんな人心掌握スキルがやたら高い九歳の女の子が帰った後、エイジン先生はアラン君を例の倉庫に呼び出し、改めて明日からの仕事について説明した。
「ま、俺の助手と言っても名目だけで特に手伝う事なんかない。オフシーズンの旅行に来たつもりでのんびりダラダラしててくれ。貴重な時間を無駄に過ごさせて悪いが」
果たしてそれが仕事と言えるのかどうかは甚だ疑問であるが。
「いえ、願ってもない話です。と言うか、部外者がリング家の森に行けるなんて滅多にない機会ですよ」
突然の話に迷惑がる様子もなく、むしろ乗り気なアラン君。
「巻き込んでおいてなんだが、そんなにあんな所へ行きたいか? テイタムお嬢ちゃんに写真で見せてもらったが、かなり鬱蒼とした森の中だったぜ? 俺のいた世界にも、ちょうどあんな感じの自殺の名所がある」
「確かに陰鬱な雰囲気かもしれませんが、それでもリング家の森は、魔法使いなら後学の為に一度は訪れてみたい場所なんです。強制的に行く羽目になるのは嫌ですけれど」
「何だ、やっぱり自殺の名所か」
「違います。森の中に魔法使いの犯罪者を扱う特別な施設があるんです。どんなに強力な魔法使いでも、リング家の女当主から半径一キロ以内に連れて来られればただの人間ですから」
「ああ、そういや、ヴィヴィアンも魔法捜査局に属してるんだったな。無効化魔法の有効な利用法って訳だ」
「はい、捜査官達の手に余る様な魔法使いが罪を犯した場合、魔法捜査局はそこを借りて取り調べたり裁判をやったりするんです。まあ、滅多にそういうケースはありませんが」
「治外法権はどうなる? 森の中は外の法律が及ばないんだろ?」
「犯罪者を取り扱っている間、その建物の内部はこちら側の法律が適用される事になってます。大使館の中みたいな扱いですかね」
「なるほど。確かにその辺はきっちりしてないと意味がない」
「まあ、私の様な無名の下っ端魔法使いだったら、そんな特殊な場所を使う必要もありません。なけなしの魔法で反抗を試みた所で、ジュディ特別捜査官みたいな強力な魔法使いにあっさり取り押さえられてしまうのがオチです」
「強力な魔法使いじゃなくても、愛しのアンヌに頼めばアラン君を取り押さえるのは造作ないよな!」
「はは、確かにそうかもしれません」
恋人を引き合いに出してからかわれ、ちょっと照れた様に笑うアラン君。
「アラン君が可愛いメイドさん達に囲まれてウハウハな写真をアンヌに見せれば効果は倍増だ!」
「あのふざけた写真はいつまでも保存してないでちゃんと消してください! お願いですから!」
恋人の凄まじい形相を想像してしまったのか、急速に青ざめるアラン君。




