▼456▲ 美魔女と細マッチョのおしどり夫婦
「そしてこれがブランドンさんのお母さん、つまりリング家の女当主ヴィヴィアン・リングさんの写真です」
テイタムが携帯を操作して画像を切り替えると、今度は黒いドレスを身にまとい、ふわふわに広がった濃い茶色の髪を肩まで伸ばした、ややきつめだがぱっちりとした青い目でこちらを挑戦的に見据えている美人が現れた。
「やっぱり綺麗な人ね。とても十七歳の息子がいる未亡人とは思えないわ」
「ええ、確か三十代半ばのはずですが、二十代前半にしか見えません。文字通り『美魔女』です」
そんな感想を述べつつ、エイジン先生の反応を横目でちらと窺うグレタとイングリッド。
「なるほど。多くの人の上に立つ身分だけあって、姐御肌な感じがするな。レディースの総長っぽいと言うか」
ポンコツ主従の心配をよそに、画像の美魔女を女暴走族呼ばわりする失礼なエイジン先生。
「ちなみにこれは父が撮った写真です。あまりヴィヴィアンさんに好感を持たれていないのがよく分かります」
笑顔で淡々と父ライアンをディスるテイタム。
「被写体の表情には撮影者への感情がモロに表れるよな。あまり好みのタイプじゃなかったと見える」
「それもありますが、ヴィヴィアンさんは亡くなった旦那さんを今でもとても愛していらっしゃるので、父は元より他のどんな男性も、この夫婦の間に割って入る余地はなさそうです」
「ははは、未亡人を口説こうと企んだ君んちの親父さんは無駄足踏んだ訳だ。しかしそこまで愛されてるとは、亡くなった旦那さんはさぞかしいい男だったんだろうねえ」
「特別に旦那さんの遺影も撮らせてもらいました。これがヴィヴィアンさんの最愛の男性ことブルース・リングさんです」
またテイタムが携帯を操作すると、今度はあまりボリュームのないマッシュルームカットの黒髪に、太い眉毛としゃくれたアゴ以外は地味な顔立ちの、二十代半ば位の東洋系の男性の画像が現れた。下は黒い道着を着ているが、なぜか上半身裸で、左手を前に軽く下げつつ右手をアゴの辺りに上げて、その小柄ながら鍛え抜いた筋肉を誇示する様に、こちらに向かって鋭く構えている。
「インパクトありまくりな遺影だな、おい」
ツッコまずにはいられないエイジン先生。
「九年前に亡くなったこのブルースさんも、エイジンさんと同じ武術家です」
「うん。むしろこれで武術家でなかったら、ただの変な人だよ」
口の悪いエイジン先生。




