▼455▲ へヴィメタバンドのライヴ会場周辺でよく見かけるメンバーそっくりのメーキャップをした人達
「まさか、その息子と無理やり結婚させられる為に、リング家に連れて行かれたんじゃないでしょうね、テイタム!」
座っていたソファーから身を乗り出して色めき立つグレタ。
「落ち着け、それはあり得ない。リング家の現当主は一刻も早く後継ぎの孫娘が欲しいのに、息子をまだ子供を産む事が出来ない九歳の女の子と結婚させる訳がない。そうだろ、テイタムお嬢ちゃん?」
隣から手を伸ばしてグレタの首根っこをつかみ、ソファーへ戻すエイジン先生。
「失礼ですが、テイタムお嬢様。もう月の物は――」
失礼にも程がある質問を九歳の女の子にするイングリッド。
「百歩譲って女子会とかならまだしも、男がいる場所でそういう事を聞くんじゃない」
隣から手を伸ばし、失礼を通り越して無礼極まるポンコツメイドの口をふさぐエイジン先生。
「私なら大丈夫です、エイジンさん。イングリッドさんを解放してあげてください」
アホな大人達の言動に引く事なく、にっこり笑うテイタム。
「すまない、お嬢ちゃん。すぐにハリセンを用意する。今度このポンコツメイドが何かしょうもないボケをかましたら、それですかさずツッコんでやれ」
「ちなみに初潮はまだです。仮に来ていたとしても、赤ちゃんを産むには体がまだ出来ていませんし」
「誰がボケにボケをかぶせろと言った」
身を乗り出してテーブル越しに手を伸ばし、正面から軽く、ぺち、とテイタムの頭をはたくエイジン先生。
「エイジン! 小さい女の子の頭をはたくなんて!」
「エイジン先生、お客様に対して失礼ですよ!」
同時に身を乗り出してエイジン先生の頬を両側から、バシッ、と挟む様にはたく息の合ったポンコツ主従。
「皆さん、本当に仲がいいんですね」
この一連の流れを見てくすくすと笑うテイタム。
「すまない、あんまりキレがいいボケだったんで、ついツッコんじまった。痛くはなかったろ?」
一応謝るエイジン先生。
「大丈夫です、分かってます。つまり、これで私も皆さんの仲間と認められた訳ですね?」
嬉しそうに答えるテイタム。
「お嬢ちゃんがこの下品なトリオ漫才に毒される前に話を元に戻そう。ともかく、お嬢ちゃんがそのリング家の子息の結婚相手にされる危惧はない、と」
「はい。でも、実際にその息子さんにお会いしたんですが、結構ハンサムで真面目で優しくていい人でしたよ。結婚相手としては申し分ありません」
「そりゃ残念だったな。向こうがもう少し若ければ、案外いい縁談だったかもしれないのに」
「で、これがその息子さん、ブランドン・リングさんの写真です」
テーブルの上に置いてあった自分の携帯を再び操作し、一枚の画像を出すテイタム。
そこには、黒いシャツに黒いコートを羽織った、肩にかかる位のウェービーな黒髪ロン毛の少年が写っていた。どこか憂いを帯びたその風貌は、なるほど中々ハンサムに見えない事もないが、
「……もしかして、このご子息はへヴィメタとか好きなのか?」
とエイジン先生が呆れた様に、その顔は真っ白く、目元と唇は真っ黒くメイクされており、ハンサムな少年と言うよりは闇堕ちしたピエロ、もしくはへヴィメタバンドのメンバーと言った方が早かった。
「へヴィメタかどうかは知りませんが、趣味でギターをやっているそうです」
にっこり笑って答えるテイタム。




