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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽おまけ4△

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453/556

▼453▲ とあるホラー作品による全国の「貞子」さんに対する風評被害

「テイタムお嬢ちゃんからだ。ついにあの見境がないドン・ファン親父に愛想を尽かして家出を決行したか」


 発信者名を確認し、割と失礼な邪推をした直後、


「よお、テイタムお嬢ちゃん、元気かい?」


 陽気な口調で携帯に出るエイジン先生。


「元気です。先日は色々とありがとうございました、エイジンさん。今、車で割とそちらに近い場所まで来ているんですが、ご迷惑でなければ今からそちらに伺ってもいいですか?」


 九歳の子供にしては妙に落ち着き払ったテイタムの声が返って来る。


「ああ、こっちは暇だから遠慮せずに遊びにおいで。車で来るなら正門の守衛に話を通しとくから、ガル家の敷地内に直接乗り入れる様、そっちの運転手に伝えてくれ」


「分かりました。では、今から約二十分後にそちらへお邪魔します」


 そこで通話を終えると、自分の膝の上にいつの間にか腹ばいに乗っかって二人の会話に聞き耳を立てていたイングリッドへ、


「そんな訳で、もうすぐテイタムお嬢ちゃんがここに来るから、グレタ嬢と正門の守衛に連絡頼む。それと、そこからさっさと降りろ」


 と言ってグイグイその脇腹を押し、何とか膝の上からこのポンコツメイドを落とそうと試みるエイジン先生。


「了解しました。早速連絡致します」


 しかし、エイジンの膝の上にしっかとしがみついたポンコツメイドはそのままの状態で自分の携帯を取り出し、連絡を終えるまで意地でもそこから降りようとしなかった。


 そんな間の抜けたやりとりから約二十分後、小屋にテイタムが到着し、にっこりと笑って、


「この前は状況が状況だったので何も用意出来ませんでしたが、今日はこちらに来る途中でこれを買って来ました。どうぞ皆さんで召し上がってください」


 玄関で出迎えてくれたイングリッド、グレタ、エイジンの方へ紙袋を差し出した。


「お気遣いありがとうございます、テイタムお嬢様。美味しそうなマフィンですね。すぐにコーヒーをご用意しますので、どうぞこちらへ」


 ポンコツメイドから有能メイドに切り替わったイングリッドが前に出てその紙袋を受け取り、


「ありがとね、テイタム。でも、気を遣わなくてもいいわよ。自分の家だと思って気軽にいらっしゃい」


 トレーニングを早めに切り上げ、淡いベージュのタートルネックセーターに黒いジーンズというラフな格好に着替えたグレタも、この小さな訪問客を歓迎する。

 

 テイタムは白い幾何学的な模様をスカートの裾にあしらった濃いグレーのワンピースに、大きな白い襟が付いた淡いグレーのボレロ、胸元には黒いリボンタイ、足にはくるぶしの上でフリフリのレースを折り返した白ソックスに黒い靴を履いており、


「何かの式典に出てたのか? この前来た時とは打って変わって、随分フォーマルな格好だが」


 この入学式の新一年生の様な姿を見て、ついそんな感想を漏らすエイジン先生。


「父の用事に付き合わされて、この世界でも由緒ある大物を訪問してたものですから」


「大物?」


「エイジンさんは、人里離れた広大な森の中にひっそりと住むリング家はご存じですか?」


「いや、知らん」


「この世界でリング家を知らない者はいないわよ、エイジン」


 テイタムの言葉に少し驚いた様子で口を挟むグレタ。


「魔法捜査局の中でも特異なポジションを占め、政界にも大きな影響力を持つ魔法使いの一族です。正確には魔法使いの一族の女当主と言うべきかもしれませんが」


 簡単に補足するイングリッド。


「父はそのリング家の女当主に会いに行ったんです。女当主はとってもきれいな未亡人、と言えば、何故父が会いに行ったのかは何も言わなくてもお分かりでしょう」


「ナンパ目的か。大物相手によくやるわ。しかも幼い娘を一緒に連れて行くとは」


 呆れるエイジン先生。 


「逆です。幼い娘を一緒に連れて行く事で、未亡人の警戒心を解こうという姑息な作戦です」


「娘をナンパの小道具に使うのかよ。業が深すぎる」


 ますます呆れるエイジン先生。


「でも、リング家の森の中にはこんな事でもなければ滅多に行ける機会もないので、ナンパの小道具扱いもそう悪い事ばかりではなかったです。これがその森の中の写真ですが、中々閑静な雰囲気が出ていると思いませんか?」


 そう言ってテイタムは携帯を取り出し、一枚の画像をエイジン達に見せた。


 そこには鬱蒼とした薄暗い森の中に古井戸がぽつんとあるという、閑静を通り越して不気味な風景が写っている。


「『リング』家の森の中の『井戸』か。まさか、この井戸から白い服を着た髪の長い女が出て来たりしないだろうな」


 くだらない事を尋ねるエイジン先生。


「出ません。見た者を死に至らしめる呪われたビデオとかも無いので安心してください」

 

 微笑んで答えるテイタム九歳。


「もしや、その女当主は『サダコ』って名前か?」


「いえ、『ヴィヴィアン』ですが」


 エイジン先生のくだらない質問に一々真面目に答えてあげるテイタム九歳。

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