▼445▲ よその犬猫と遊んでから帰ると自分の家で飼っている犬猫が「浮気したな!」とばかりに執拗に体の匂いを嗅ぎまくる現象
「アーノルドには『帰りは安全運転で』って言ってくれ。ご先祖様の霊だって、『迎える時は早く、送る時は遅く』が基本だろ」
そんなエイジン先生の分かりにくい例えを、
「うふふ、お盆の時に飾るキュウリの馬とナスの牛のこと?」
すぐに理解する超日本通のマリリン。
「『精霊馬』と『精霊牛』な。ともかく安全運転で頼む。どの位安全運転かと言うと、キレた後続車の運転手が無理やり前に出て、こっちの車を止めてからフロントガラスを割りに来る位」
「あまり安全じゃなさそうだけど?」
「安全さ。で、喧嘩を売った相手が筋肉モリモリマッチョの強面だと知った時のそいつの顔は見ものだぜ」
「まあ、それはとっても面白そうね! アーノルドには安全運転をさせるわ!」
こうして何とかマリリンを言いくるめたエイジン先生は、筋肉モリモリマッチョの強面が安全運転する車に乗ってローブロー家をゆっくりと後にする。当然と言えば当然だが、長い帰りの道中、このマッチョに喧嘩を売る命知らずはついに現れなかった。
約四時間後、ガル家の正門前でアーノルドに礼を言って車を降り、敷地内を歩いてようやく小屋に辿り着いたエイジン先生を犬と猫、もとい柴犬の着ぐるみパジャマ姿のグレタと三毛猫の着ぐるみパジャマ姿のイングリッドが無言で恨めしげに出迎えた。
「ただいま。って、まだその格好してたのか」
呆れ顔のエイジン先生に二匹は無言のまま近寄ると、その顔を胸元に近付けてクンクンと匂いを嗅ぎ、
「あの女の匂いがするわ」
「これは消臭する必要がありますね」
と非難がましくコメントした。
「犬猫あるあるだな。よその犬猫と遊んでから帰ると、出迎えた自分ちの犬猫が執拗に体の匂いを嗅ぎまくる、ってやつ」
非難されても全く動じずに飄々とトリビアを披露するエイジン先生。
そんなエイジン先生の腕を両側からがっちりとつかみ、
「まずはお風呂よ、エイジン!」
「徹底的に他の女の匂いを落としてから、私達の匂いで上書きします!」
有無を言わせず風呂場に連行する犬と猫。
「中継を最後まで見てたなら知ってると思うが、朝食がまだなんだ。風呂の前に何か軽く――」
「ワンッ!」
「フーッ!」
言葉の通じない犬と猫に連行されるがままのエイジン先生。




