▼444▲ 王道少女漫画におけるヒロインの最低条件
「頭脳派悪役令嬢?」
エイジン先生のおかしな物言いにクスッと笑うマリリン。
「日本通のあんたなら、王道少女漫画によく悪役令嬢が登場するのは知ってるよな? ヒロインに意地悪をするのが主な仕事の」
おかしな物言いの補足をするエイジン先生。
「ヒロインのトゥーシューズに画鋲を仕込んだり、ヒロインに無実の罪を着せて投獄したり、ヒロインをモーターボートの舳先にくくり付けて湖を一周したりするアレ?」
「大体合ってるが、最後のはリアクション芸人を使ったお笑い番組だと思う。ともかく大雑把にまとめると、『己の目的の為に汚い手段に訴える事も辞さないお嬢様キャラ』全般の事だ。必ずしもヒロインの敵でなく、ストーリー展開によっては味方をする場合もある」
「いい子ちゃん過ぎてつまらないヒロインより、そっちの方が魅力的よね」
「かもな。で、この悪役令嬢にもタイプが色々ある。ウチのグレタ嬢みたいにすぐカッとなって手が出る単純なタイプとか、ジュディ嬢みたいに澄ました顔の裏で強い執念をくすぶらせるタイプとか」
「じゃあ、私はどんなタイプの悪役令嬢?」
「あんたは自分が面白ければ何でもやっちゃう迷惑千万なタイプ」
「まあ、ひどい!」
エイジン先生の答えが気に入ったらしく、お腹を抱えてケラケラ笑うマリリン。
「テイタムお嬢ちゃんは、自分が置かれている状況を正確に把握して瞬時に最適解を見出す頭脳派パズラータイプだ。それだけだったら十分ヒロインの素質があるが、最適解を得る為にかなりダーティーな手段の使用も厭わぬ点で悪役と呼ぶ方が相応しい」
「うふふ、王道少女漫画の可愛いらしいヒロインが嬉々として凶悪犯罪に手を染めちゃダメよね」
「いたいけな少女読者達がドン引くわ。手を汚すのは悪役の仕事さ」
「私達みたいな?」
「ああ。あんたやテイタムお嬢ちゃんやピーターのオッサンや俺みたいな悪役のな」
笑い合う二人の悪役。
「さて、夜も明けた事だし、俺もそろそろお暇させてもらうよ。ここの使用人も起きた頃だろう。誰かに頼んで車を出してもらえるとありがたいんだが」
「またアーノルドに運転させるわ。でも、その前に朝食でもどう、エイジンさん?」
「遠慮しておく。ウチの犬猫をこれ以上待たせると、イラついてソファーをズタズタに噛みちぎったり、壁でガリガリと爪研ぎしかねない」
「うふふ、二匹とも寂しがり屋さんなのね。いいわ、ご主人様はすぐに返してあげる」
こちらの様子をガル家へ生中継しているウェブカメラに向かってそう宣言した後で、エイジン先生の方に向き直り、
「アーノルドには、ここに来た時の倍のスピードでエイジンさんをガル家へ送る様に言っておくわ」
洒落にならない冗談を言ってクスクスと笑うマリリン。
「やめろ。ジェットコースターは安全だからこそ楽しいんだ」
冗談を本気で実行させかねないこの女に対し、一応ツッコミを入れておくエイジン先生。




