▼439▲ BGMと共に変形して光るお台場の観光名所な巨大ロボ
アラン君をウハウハメイド天国、もしくは肉食系メイド地獄から救い出し、三人で屋敷の玄関前に停めておいた車まで戻ると、
「アラン君、ちょっとトランクを開けてくれ。テイタムお嬢ちゃんに渡したいものがある」
そう言って、エイジン先生は車のトランクから、ちょっとした家電製品が入りそうな大きさの、取っ手が付いた白い箱を取り出した。箱には金色のツノが二本生えているロボットの顔の絵が大きく描かれている。
「それは何ですか?」
九歳の子供相応にワクワクした表情で尋ねるテイタム。
「おとといファッションショーをやる前、俺が皆でロボットのプラモデルを作らないかと提案した時、お嬢ちゃんはちょっと興味を惹かれてたろう? ジェーンお嬢ちゃんとグレタ嬢の二人は反対してたが」
「はい。気付いてくださったんですね」
「プラモデルもある意味立体パズルだから、パズラーの血が騒いでも無理はない。そこで、これをお嬢ちゃんにあげよう。あの時提案したのは、百四十四分の一スケールのちっちゃいやつだが、これは六十分の一スケールの結構大きいやつだ。パーツの数が多くて少々面倒くさいが、お嬢ちゃんなら楽勝だろう。組み上がると、地味なモードから派手なモードに変形出来たり、別売りのLEDユニットを組み込むと体が光って中々綺麗なイルミネーションになる」
さらにエイジン先生はトランクから、やや小さい箱が入った紙袋を取り出し、
「これが別売りのLEDユニットだ。最低限必要な工具一式も紙袋の底に入れといたから使ってくれ」
大きな箱と合わせてテイタムに手渡した。
「ありがとうございます。時間をかけてじっくり挑戦してみますね」
笑顔でそれらを受け取るテイタム。
「君の家から頂いた二千万円に比べたら微々たる粗品だが、こんなきっかけでもなけりゃ、女の子が滅多に手を出す事もない代物だ。目一杯楽しむといい」
そう言って、車に乗り込むエイジン先生。ドアを閉めてからパワーウィンドウを開け、
「さて、これで君達の家出も無事終了した訳だが、これからも気が向いたらウチに遊びにおいで。遠慮はいらない。何せもう二千万円もふんだくってるんだからな!」
悪人っぽくおどけて笑って見せるが、
「ジェーンと私の家から大金をせしめたのは、そういう配慮もあったからですね。特にジェーンがまたエイジンさんの家に逃げ込んだ場合、普通なら親は先方に迷惑が掛かる事を懸念しますが、エイジンさんの所なら、『あそこにはもう大金を払ってある』と、遠慮なく預けられます」
テイタムはその偽悪をしっかり見抜いていた。
「ま、ジェーンお嬢ちゃんの場合、これで全部めでたしめでたしって訳にゃ行かないだろうよ。人の性格とか親子の関係ってのはそう簡単に変えられないもんだし、特にあの父娘は二人共強情っ張りだからな」
「私もそう思います。でも、エイジンさんの所に行けば、助けてくれますよね? 何度でも」
「ああ。それが二千万円分の義理だ」
「それを思えば、安過ぎる金額です」
テイタムはにっこりと笑い、
「ジェーンを助けてくださって、本当にありがとうございました、エイジンさん」
この友達思いの小さな策士は心からの礼を述べ、
「それと、プラモデル製作で分からない所があったら、遠慮なく質問させて頂きますね」
「親友の心配とプラモ製作が同格かよ」
軽くボケてエイジン先生を笑わせた後、ニールキック家の屋敷から去って行く車を見送った。




