▼436▲ 不都合な真実より役に立つ都合のいい嘘
「もちろんピーターのオッサンもバカじゃない。ガル家に来ているはずのお嬢ちゃん達がいないと聞いて、最初はちょっと驚いたものの、すぐに『こいつは何か怪しいぞ』と勘付いた」
二人の女子小学生を誘拐した経緯について、全く悪びれずに解説を続けるエイジン先生。
「その後ピーターさんは、私達がどこに匿われているのかもすぐに探り当てていましたね。迷子を装って小屋の前まで探しに来たピーターさんがエイジンさんと押し問答をしていたのは、全部聞こえてました」
家出から転じて誘拐された経緯について、楽しそうに振り返るテイタム九歳。
「まったく油断も隙もねえ名探偵だよ。さらに、例の魔力で動く兵隊の人形を使って二重の罠を張ったり、こっちの腹を探ろうとしつこく尋ねて来たり」
「でも、そういう油断も隙もない賢い人だからこそ、エイジンさんにとっては逆に都合が良かったんじゃないですか?」
「ああ、ピーターが感情に任せて考え無しに行動する様なアホだったら、こっちもかなり苦労してたかもな。ジェーンお嬢ちゃんをつつがなく家出から帰宅させる事が出来たのは、あのオッサンが冷静に状況を見極めた上で最善手を打てる賢い奴だったからだ。賢い奴とは話せば分かるから無駄な戦いをせずに済む」
「それにエイジンさんとピーターさんは立場は違っていても、『ジェーンを無事保護する』事で目的が一致してましたしね」
「そう言うお嬢ちゃんもな。こうしてテイタムお嬢ちゃんとピーターのオッサンと俺の三人の目的が一致した結果、『ジェーンを無事保護する』為、暗黙裡に『ジェーンを騙す』という共犯関係が出来上がる。それが今回の狂言誘拐事件の真相だ」
「『暗黙裡に』という所がポイントですね。私はエイジンさんの方から申し出てくだされば、ジェーンに内緒でこっそり裏で手を結んでも良かったのですが」
「この手の芝居は、互いに打ち合わせ無しでやった方が緊迫感が出るからな。もっとも三人共、互いの腹の内は見抜いてたから同じ事だが」
「私達三人がジェーンを騙していた事を、ジェーンのお父様には説明しましたか?」
「いいや。ヘンリーのオッサンには、『俺とピーターの二人でお嬢ちゃん達を騙してガル家で保護してた』事にしておいたよ。その方がカドが立たなくていいと思って。そんな訳で」
エイジン先生は、黙って話を聞いていたライアンパパの方を向き、
「今回の狂言誘拐事件は、『ピーターのオッサンとテイタムお嬢ちゃんと俺の三人で、ジェーンお嬢ちゃんを騙していた』のが真相だが、ジェーンお嬢ちゃんの父親のヘンリー・レンダには『ピーターのオッサンと俺の二人で、テイタムお嬢ちゃんとジェーンお嬢ちゃんを騙していた』と説明してある。親友を心配しての事とはいえ、お宅のお嬢ちゃんが今回の家出の首謀者で狂言誘拐の共犯者だと知ったら、向こうとしても少しモヤモヤした感情が残るだろうからな。
「それよりは、『俺が主犯となってピーターを共犯に巻き込みつつ、狂言誘拐に見せかけて二人のお嬢ちゃんを保護していた』、という事にしておいた方が、レンダ家とニールキック家の間に何のわだかまりも無くていいだろ? 両家とも俺に騙されていたという事で同じ立場になれるし、事件の責任は全部俺が背負う形になる」
簡単に結論を述べた。
「なるほど。今回の事件、真相はどうあれ、表向きは君が全て仕組んだ事にしておけ、と言うのだね?」
察しのいいライアンパパ。
「そう、あんたも政治家なら、『不都合な真実より、都合のいい嘘の方が役に立つ』って事はよくご存じのはずだ」
「いかにも。君はまったく物事の道理をよく心得ているね。流石、テイタムが『大金を払ってでも知り合いになっておく価値がある』と判断しただけの事はある」
「ま、やってる事はタダの詐欺だけどな!」
「ははは、政治家も詐欺師も似た様なものさ。どうだい、私と組んで政界に乗り出さないか?」
「遠慮しとくよ。有権者に絶えず愛想を振りまかなきゃいけない、って日常はさぞやストレスが溜まるだろうから」
「大丈夫! 有権者の見てない所で思いっきりハメを外してストレスを解消すればいいのさ!」
「それがあんたの場合、あの美人秘書とメイドなのかよ」
呆れるエイジン先生。
「こんなしょうもない父ですみません、エイジンさん」
謝るテイタム九歳。暗に父親をディスっているとも言う。




