▼435▲ 他人の車のトランクに潜り込むタイミングの見極め方
照魔鏡でその正体を暴かれた妖魔の如く自分の内面を九歳の女の子に見透かされ、
「すげえな。お嬢ちゃんがリアルで俺の妹の友達なんじゃないか、って気がして来たぞ、マジで」
それでも飄々と軽口を叩くエイジン先生。
「グレタさんとイングリッドさんはエイジンさんにとって可愛い妹さんの様なものですから、あながち間違いでもないと思います」
にっこり笑ったままエイジン先生の内面に容赦なく踏み込み続けるテイタム九歳。
「『バカな子ほど可愛い』ってやつだ。ま、あのポンコツ主従の事はさておき、話を戻そう。お嬢ちゃん達は俺達三人に狙いを定めると、付かず離れずの距離を取りながら遊園地のアトラクションを楽しむ事にした。俺達が帰るそぶりを見せたら、すぐに車の所に行ってトランクに潜り込むつもりでな」
「バカップルの会話を注意深く聞いていれば、いつ頃帰るかは大体分かります。『そろそろここを出る?』、『じゃあ、最後にあれに乗ってからにしよ!』、という具合にシメのアトラクションが入りますから」
「バカップルがシメに使うアトラクションと言えば、ほぼ観覧車一択だ。オープンカフェで俺がポンコツ主従に、『帰る前に、もう一度観覧車に乗ろうぜ』って言ってたのも、もちろん聞いてたよな?」
「はい。それを聞いた私達は皆さんが駐車場に戻って来る前に、用意しておいたリレーアタック用の機械を使って車のトランクに潜り込んだんです」
「見事な手際だったよ。あのピーターのオッサンでさえ、まんまと騙された位だ。この一連の逃走劇は、遊園地のアトラクションなんかよりずっとスリルがあって面白かったろう?」
皮肉でなく、心底愉快そうに尋ねるエイジン先生。
「はい、無断で乗車した事は申し訳ありませんでしたが、車のトランクの中にジェーンと息を潜めて隠れていたのは、ちょっとした脱獄映画の主人公になった気分で面白かったです」
淡々と、しかし心底愉快そうに当時の心境を語るテイタム。
「だがピーターのオッサンもさるもの、すぐにお嬢ちゃんの仕掛けたトリックを見破って、俺達の車を追ってガル家までやって来た。ピーターに事情を説明された俺達は、すぐにガレージに行ってお嬢ちゃん達を発見したものの、あまりスレてなさげな、いかにもいいとこ育ちのお嬢ちゃん二人がこんな無茶をしでかした事にどうも引っかかってな。だから、とりあえずウチでかくまって、お嬢ちゃん達側からの話も聞いてみる事にしたんだ」
「エイジンさんもグレタさんもイングリッドさんも、皆いい人で助かりました」
「皆悪い人だから助かったんだけどな。いい人だったら、その場でピーターのオッサンに身柄を引き渡してるぜ!」
愉快そうに笑い合うテイタムとエイジン先生。
いい人か悪い人かで言えば、二人共悪い人である。
もっと正確に言えば、すごく悪賢い人。




