▼434▲ 妹のお願いを中々素直に聞いてくれず自分の事しか考えてない様に見えるけれど何だかんだで結構面倒を見てくれて頼りになるお兄ちゃん
「ま、子供だけの家出だと、どうしても限界があるからな。どんなにお小遣いを持ってても、保護者がいなけりゃ一夜を明かす宿すら確保出来ないし。俺達が介入してなければ、身内であるピーターのオッサンに捕まって終わり、が最善な落とし所だった訳だ」
他人事の様に事件を振り返る、誰がどう考えても主犯格のエイジン先生。
「はい。夜の街を子供だけでうろつけば警官に補導されますし、野宿は危険ですし、『お嬢ちゃん達、おじちゃんの所に泊めてあげようか?』、と鼻息を荒くして声を掛けて来る変質者はもっと危険です」
同じく他人事の様に事件を振り返る、このたび新たに主犯格である事が発覚したテイタム九歳。
「テイタムお嬢ちゃんは本当にしっかりしてるな。お父さんが君に絶大な信頼を置いて野放しにしてるのも頷ける」
「はっはっは、娘が褒められるのは嬉しいが、その分私が落とされている様で複雑な気分だよ」
にこやかに笑いながら、隣に座るテイタムの頭をわしわしとなでるライアンパパ。無言でその手を振り払うテイタム。
「落とされたくなかったら日頃の行いを改めたらどうよ? 特に女関連」
娘からあまりリスペクトされていないライアンパパを見ながら助言するエイジン先生。
「やっぱり、落ちる所まで落ちる事にしよう! さ、説明の続きをしてくれ」
懲りないライアンパパに、エイジン先生は軽くため息をついてから、
「じゃ、話を戻そうか。さて、遊園地に到着したお嬢ちゃん達は、楽しいアトラクションに背を向けて、駐車場を一望できるベンチに陣取ると、自分達の逃走に使う車の品定めから始める事にした。目先の楽しみに溺れず冷静に計画を進められるのは、とても偉いと思う」
小学生の悪事を褒め、
「そんな二人のお眼鏡に適ったのが俺とグレタ嬢とイングリッドの三人が乗った車だった訳だが、一応聞いておこうか。どうして俺達を選んだんだ?」
と、テイタムに尋ねる。
「エイジンさん達を選んだ理由は三つあります。まず一つ目は、『イチャイチャしている幸せそうなバカップル』だった事。正確には男一人女二人の三人なので、『バカップル』でなく『バカトリオ』と呼ぶべきかもしれませんが」
「『バカトリオ』はやめてくれ。バカなのは二人の女だけだ」
その場にグレタとイングリッドがいたら、ハリセンでスパーンと後頭部をはたかれそうな事を言うエイジン。
「呼び方はさておき、イチャつく目的で遊園地に遊びに来ている若い男女なら、惚れた相手の前で小さい子供に怒る事はない、むしろ『子供に優しい私』を演出するだろう、と踏みました。向こうから子犬がやって来るのを見て、彼氏の前で『いやーん、可愛い!』と大げさにアピールする女の様に」
「やたら冷めた恋愛観を持ってるな、お嬢ちゃんは」
「それにあんなにきれいな女の人を二人も侍らせている男の人なら、小さい女の子に手を出す程餓えてもいないでしょうし」
「おまけにやたら生々しいと来てる」
「二つ目の理由は、『三人の中にグレタ・ガルさんがいた』からです」
「グレタ嬢を知っていたのか」
「はい、ジェーンは気付かなかったみたいですが、私には分かりました。有名な人ですし」
「『ガル家の狂犬』っていう悪い意味での有名人だけどな。その悪名のおかげでしばらく社交界から遠ざかってたから、ジェーンお嬢ちゃんが顔を知らないのも無理はない」
「それに加えて、『最近「ガル家の狂犬」も男が出来て急に大人しくなった』という噂も知ってましたから」
「エリザベス嬢辺りが発信源だな。まったくゴシップってやつは、ガソリンに引火する炎の様にあっという間に広がりやがる」
「そんなグレタさんなら、父親と険悪な状態にあるジェーンの気持ちを分かってくれると思ったんです」
「グレた不良達が家族の悪口で意気投合するのはどこの世界でも同じ、って訳か」
「三つ目の理由は、『エイジンさんがいい人そうだったから』です」
「はは、残念ながら俺はどちらかと言えば悪人の部類だよ、お嬢ちゃん」
軽く肩をすくめて皮肉っぽい笑みを浮かべて見せるエイジン先生。
「いいえ、どちらかと言うと、『妹のお願いを中々素直に聞いてくれず自分の事しか考えてない様に見えるけれど何だかんだで結構面倒を見てくれて頼りになるお兄ちゃん』という感じです」
にっこり笑って妙に的確な性格診断を下すテイタム九歳。




