▼433▲ 「ほほほ、つかまえてごらんなさい」とふざけながら逃げて彼氏を見失う元陸上部の女
「さて、策士であるテイタムお嬢ちゃんは、そんな風にジェーンお嬢ちゃんの家出を手助けする一方で、この家出をどう終わらせるかについてもちゃんと考えていた。まるで消防署に通報してから放火する様にね。ちょっと違うか」
不謹慎なギャグを挟みつつ、エイジン先生の説明は続く。
「ジェーンお嬢ちゃんの携帯を反対方向に向かう列車の中に置いたのもその布石だ。『こうすればGPS機能を使って追っ手を騙す事が出来る』とか言って、ジェーンお嬢ちゃんを納得させたんだろう。ま、実際騙されていたのはジェーンお嬢ちゃんな訳だが」
「ん、それはどういう事かな?」
話についていけなくなったライアンパパが尋ねる。
「レンダ家の追っ手にピーターという名探偵がいる事を、テイタムお嬢ちゃんはきっちり計算に入れていたんだ。要するに、『ピーターならこのトリックを見破って、反対の反対、つまり自分達が向かう方向と目的地をすぐ割り出すに違いない』、と読み切っていたのさ。謀略を巡らす時はまず敵の知能を考慮するのが鉄則だ」
偉そうに講釈を垂れるエイジン先生。
「なるほど、ピーターか。確かにあの男の知能ならウチの娘にも引けはとらないな!」
親バカ丸出しで納得するライアンパパ。
「はい、ピーターさんなら何も説明しなくても、私の意図を察してくれると信じてました。私達に追い付いてもすぐには捕まえずに、遊園地から出て来るまで待っていてくれるだろうという事も」
淡々と証言するテイタム九歳。
「何より、ピーターのオッサンはジェーンお嬢ちゃんの境遇に同情してたからな。これでテイタムお嬢ちゃんは有能な共犯者を得たも同然、知らぬはジェーンお嬢ちゃん本人ばかりなり、って構図が出来上がる」
「せっかくピーターさんが共犯者になってくれたのに、遊園地だけで終わってしまうのももったいない話です。なので、『さらにどこまでピーターさんから逃げ切れるか』という鬼ごっこゲームを追加しました。さっきエイジンさんが仰った通り、『ストレス解消には悪い事をやるのが一番』ですから」
「で、お嬢ちゃんはピーターのオッサンがちゃんと追って来てくれる事を期待して、遊園地に来てる他の客の車のトランクに潜り込んで逃げようと企んだ。一応聞いておくが、万一お嬢ちゃん達がピーターのオッサンを振り切って逃げ切る事に成功しちゃった場合、どうするつもりだった?」
「遅かれ早かれ捕まりますから、考えるだけ無駄です。私達二人だけでは絶対ピーターさんに勝てっこありません。ですが」
テイタムは九歳の女の子らしくにっこりと笑い、
「ピーターさんに勝るとも劣らない共犯者が現れてくれたおかげで、このゲームは一層面白くなりました」
九歳の女の子にあまり似つかわしくない台詞を口にした。




