▼429▲ 頼って欲しい父と「金だけ出せ」と要求する娘
「なるほど、『蛙の子は蛙』って訳か。テイタムお嬢ちゃんのあの並外れた知恵と度胸は、父親のあんた譲りだったんだな」
改めて目の前のライアンをしげしげと眺めつつ、「欲望に素直過ぎるダメエロ親父」から「何でも知ってる賢いパパ」へと評価を爆上げするエイジン先生。
「嬉しい事を言ってくれるね、と言いたい所だがちょっと違うな。どちらかと言えば『鳶が鷹を生む』の方さ。親バカと笑われるかも知れないが、あの子は私よりずっと賢い。本当なら父親として喜ぶべき事なんだろうが」
ライアンパパは少し困った様な顔で苦笑しつつ、
「正直な所、私はテイタムの才能に嫉妬している。自分より優れた娘を持つのも複雑な気分さ」
肩を軽くすくめて見せた。
「そりゃ何ともまあ、贅沢な悩みだな。世間一般の父親は可愛い娘を少しでも賢く育てようと、日々心を砕いてるってのに」
「そしていつか、その父親は賢く育てた当の娘にやり込められるんだろうね。元々男は口じゃ女に敵わないのに」
「強盗にわざわざショットガンを与える様なモンか。こんな事言うと色々な団体から怒られそうだが」
「ははは、少なくとも私が議会でそんな発言をしたら、次の選挙は勝てないな。それはさておき、私は基本、テイタムのやりたい様にやらせておいて、『何かのっぴきならないトラブルが起こったら、ここぞとばかりに出て行って、父親としていい所を見せてやろう』、と待ち構えているんだが、あの子はちっともそんな隙を見せてくれないんだ。ちょっと寂しいよ」
「見た目は子供でも頭脳は大人だもんな、テイタムお嬢ちゃんは。今回の家出事件だって、結局あんたには、『お前は黙って金だけ出せ』って要求を伝えただけらしいし」
「娘に意見を求められずに金だけせびられるのは、ある意味世間一般の父親の悲しい宿命だね。まあ、私がその二千万円を支払うのは、娘が君を『大金を払ってでも知り合いになっておく価値がある』と判断したからに他ならないんだが」
「ほほう、お宅のお嬢様は実に人を見る目がございますなあ」
冗談めかして揉み手をしながら答えるエイジン先生。
「実際、テイタムの人を見る目は魔眼クラスだよ。政治家にとってはこれほどありがたい才能もない。誰を味方に付けて誰を敵に回すべきかを事前に見抜ければ、政治活動には非常に都合がいいからね」
「ああ、確かに俺も色々と個人的な事を言い当てられたな。それにしても実に親孝行な娘さんじゃないか。あんたにとっちゃ、幸運の女神と言ってもいい位だ」
「そうだねえ。でもさ、ホラ、何か失敗をやらかして、『パパ、どうしよう、これ』とか言ってオロオロしながら泣きついて来るちっちゃい女の子って、すごく可愛いじゃない?」
「いい性格してんな。だからあんたは泣きついて来るちっちゃい女の子の代わりに、『パパ、指輪買ってぇ』と艶めかしくおねだりして来る色々な部分が大きな女の子で埋め合わせするのか」
「とんでもない、私はスレンダーな美女もウェルカムだ!」
「そういう話をしてるんじゃない」
改めて目の前のライアンをしげしげと眺めつつ、「何でも知ってる賢いパパ」から「欲望に素直過ぎるダメエロ親父」へと評価を爆下げするエイジン先生。




