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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽おまけ3△ 古武術詐欺師は悪役令嬢を巻き込んで今日もよからぬ事を企む

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416/556

▼416▲ 逆さまに展示されていたのに誰も気付かなかった絵

 自分のペースに乗せてしまえばこっちのもの、とばかりにエイジン先生は、


「すぐにお嬢様達の脱出方法を見破り、ガル家まで追いかけて来た有能な探偵のピーターさんは、何も気付かなかった私達に事情を説明して、二人がまだ隠れている可能性が高いガレージまで案内して欲しい、と要望されたのですが、私はそれをお断りしました」


 まったく悪びれる様子もなく、まるで数学の問題でも解説しているかの様に、淡々と説明を続けて行く。


「何故だ?」


 説明についていけなくなって質問する生徒、もといヘンリーパパ。


「根本的な解決にならないからです。何も不満が解消されないまま、ピーターさんに無理やり連れ戻されたとしても、お嬢様はまたすぐに家出してしまうでしょう。それでは連れ戻した意味がありません。


「連れ戻す前にちゃんとお嬢様の言い分を聞いてあげる事が必要なのです。たとえそれがどんな言い分であろうとも、まずは相手の立場になって耳を傾けてあげなければなりません。


「だから、その言い分を聞いてあげるのは、父親側に付いている人間、つまりあなたに雇われているピーターさんではダメなんです。『早く娘を連れ戻せ』と命令されている立場上、『はい、言いたい事は分かりました。とりあえず、家に帰りましょう』、と右から左へ聞き流さざるを得ませんからね。それではお嬢様の不満は解消されるどころか、却って増幅してしまいます。


「そこで、私がピーターさんの代わりにガレージに行く事を提案したのです。私なら外部の人間ですし、何より心理カウンセラーですから、その手の話を聞く事にも慣れていますので」


 長い説明の最後に、しれっと大嘘を混入するエイジン先生。


 嘘を見抜けずすっかり騙されているヘンリーパパに対し、部屋の隅からこのやり取りを見ていたピーターは必死に笑いをこらえつつも、口を出すのは自重していた。


 そんな面白いピーターを視界の隅に捉えつつ、エセ心理カウンセラーは表情一つ変えずに話を続ける。


「ピーターさんが推理した通り、ジェーンお嬢様とテイタムお嬢様はガレージに隠れていらっしゃいました。私はお二人にピーターさんが来ている事を知らせて、一応お帰りになる様に促しましたが、案の定、ジェーンお嬢様はまだ気持ちが収まらないご様子で、逆に『自分達を見逃して欲しい』とお願いされました。


「そこで、私は私の一存で、お嬢様達がガレージで見つからなかった事にして、ピーターさんには一先ずお引き取り願う事にしたのです。その際、ピーターさんの顔を立てる為に、ガル家の使用人総出で屋敷の敷地内を捜索させました。もちろん、お嬢様達を匿っている場所以外を捜索させたので、見つかる訳はありませんが。


「レンダ家の重要な取引先であるガル家にここまでさせてしまった以上、ピーターさんとしてもその結果を受け入れない訳には行きません。ですが、ご承知の通りピーターさんもそこで、はいそうですか、とあっさり引き下がる無能な探偵ではありません。


「それどころか引き下がると見せかけ、ご自分の携帯と魔力で動く人形を組み合わせて即席の発信器を作り、捜索のどさくさに紛れてガレージに置いてある車にこっそり仕掛けるという、抜け目のなさを発揮します。ダメ押しに、屋敷の敷地の周囲に五十体の人形の見張りを残して、その発信器から注意を逸らすという念の入れ様で、これには私も一杯喰わされました」


 一杯喰わされたと言いながら、その実、ピーターの行き過ぎた行為をヘンリーに示し、「レンダ家はこの落とし前をどうつけてくれますか?」と、暗に当てこするエイジン先生。


 ヘンリーが困った様な顔で、ピーターの方を見て何か言いかけた時、


「ピーターさんを責めないであげてください。仕事熱心なピーターさんは、お嬢様達の為に最善を尽くしただけですから。まあ、こちらもお嬢様達の気持ちを落ち着かせる為とはいえ、無断でお預かりしていた訳ですし、お互い様と言う事で一つ」


 ピーターの行き過ぎた行為を許すと見せかけて、すかさず自分のやったもっと行き過ぎた行為との相殺に持ち込むエイジン先生。


「そしてピーターさんがお帰りになった後、お嬢様達から事情を聞いた私はこう考えました。


「そもそもこの家出の本質は、お父様に対するジェーンお嬢様の抗議行動に他ならない。テイタムお嬢様は親友であるジェーンお嬢様にくっついて来ただけ。つまり、ジェーンお嬢様の不満がある程度解消されれば、二人共大人しく家に帰り、しばらくは家出する気も起きないだろう。


「だからと言って、『ご実家には連絡を入れておきますから、気持ちが収まるまでここでゆっくりして行ってください』と提案したのではダメだ。ささくれだったジェーンお嬢様の心には、『頭が冷えるまで預かってやるから感謝しろ、この親不孝娘が』と言っている風に聞こえてしまうだろう。下手をすると、またどこかへ逃げられてしまう恐れもある。


「ここは一つ、ジェーンお嬢様の味方をしてあげるフリをしよう。『誘拐された様に見せかけて、少しお父様を心配させてやりませんか?』と提案すれば、必ず乗って来るに違いない。


「そうすれば、お嬢様達をこれ以上どこにも逃がさず、こちらで安全に留めておく事が出来る。脅迫状を出すという名目で、子供達が無事な様子を定期的にそれぞれの実家に報告する事も出来る。何よりお父様を心配させる事で、ジェーンお嬢様の不満を大幅に解消する事が出来る」


「すると、君は――」


 驚いた様子でヘンリーが言いかけると、


「ええ、早い話、私はジェーンお嬢様を騙したんです」


 エイジン先生はそう言って、にっこりと笑った。

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