▼415▲ 他に見る番組もないのでたまたまやっていた万引きGメン特集を見ている時の何ともやるせない気持ち
ふざけた誘拐犯を一喝してやろうと待ち構えていたはずが、逆にそのふざけた誘拐犯に一喝され、すっかり調子が狂ってトーンダウンしてしまったヘンリーパパ。
そんな哀れなパパに対し、単純な子供を騙す口八丁な香具師の如く、エイジン先生は今回の事件について滔々と語り出す。
「大体のあらましは、そこにいる有能な探偵のピーターさんが捜査して推理していた通りです。それについてはもう既にお聞き及びでしょうから、私は補足する形で話を進めさせて頂きます。
「三日前、家出中のジェーンお嬢様とテイタムお嬢様が、私達と同じくムルナウパークに来ていたのはまったくの偶然です。二人のお嬢様達は入園するとすぐに、自分達の逃走に使えそうな車の物色を始めました」
「車の物色? 遊園地に入園してから?」
怪訝そうな顔をするヘンリー。
「駐車場は遊園地に隣接していて、園内から丸見えなんです。そうですよね、ピーターさん?」
ピーターの方を向いて、確認を取るエイジン先生。
「ええ、エイジンさんの言う通りです。だから、駐車場にこちらの見張りを置けなかった訳で」
いつものもっさりとした口調で答えるピーター。
「お嬢様達は遊園地の駐車場に次々とやって来る車を観察しながら、『トランクに潜り込む以上、出来ればきれいで乗り心地の良さそうな車の方がいい』、『あまり遠くから来ているのはダメ。それだけ長くトランクに閉じ込められるから。でもすぐ近所から来ているのもダメ。逃げる距離を稼げないから』、『車に乗っているのは、万一バレたとしても見逃してくれそうな優しい感じの人がいい。自分達に同情して協力してくれそうな人なら、もっといい』、などと様々な条件に照らし合わせて品定めしていた事でしょう。そんなお嬢様達のお気に召したのが、私達が乗って来た車だったと言う訳です。
「ターゲットをロックオンしたお嬢様達は、入園した私達にそれとなく近付いて行動を見張る事にしました。始終くっついていなくても、ずっと同じ遊園地にいれば同じ客と何度も顔を合わせるのが普通ですから、街中の尾行より遥かに簡単で、極端な話、私達とは別のアトラクションを楽しみながらでも可能な行為です。
「夕暮れ時になってオープンカフェで、『帰る前に、もう一度観覧車に乗ろう』と私達が話していた時も、お嬢様達は近くで聞き耳を立てていました。
「さあ、いよいよ作戦決行の時です。私達が観覧車に乗っている間、お嬢様達は違法な機械を使って、目を付けておいた私達の車のトランクへ無事潜り込む事に成功しました。これはもちろん立派な犯罪です」
そこでエイジン先生がにっこり微笑むと、逆に苦しそうな表情になるヘンリーパパ。子供の万引きがバレて店から呼び出しを食らった親の様に。
「ご安心ください。私達はその事でジェーンお嬢様達を訴えるつもりはありませんし、その違法な機械の半分はピーターさんが回収して、もう半分は私達の方で処分しましたから、証拠はまったく残っていません」
ここぞとばかりに恩を着せるエイジン先生。少しほっとするヘンリーパパに、もうこのふざけた誘拐犯へ抗議する余裕など残っていない。
「そして、私達はお嬢様達が一緒に乗っている事に気付かぬまま、車でガル家の屋敷に戻って来たのです。ええ、実際ピーターさんが来るまで、私達は何も気付きませんでしたよ」
こうして迷惑をかけた側とかけられた側の立場は逆転し、場の主導権は完全にエイジン先生が掌握する所となってしまっていた。




