▼41▲ メイドを調教する方法
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
ドッキリに引っ掛かって散々な目に遭った後もイングリッドは小屋に居続け、稽古場から戻って来るエイジンを平然と出迎えていた。
地味に夜ごとのセクハラ攻勢も続けている。全裸で。
ただ、あれ以来、少し目から光が消えている感じがなくもない。
「ただいま。ちょっと元気がないな。風邪でもひいたんじゃないのか」
心配するフリをしてさりげなく煽るスタイルのエイジン先生。
「では今晩はエイジン先生に暖めて頂くということで」
「何なら、俺が夕食作るぞ。おじやとか消化によさそうだな」
イングリッドのボケを無視して、エイジンはキッチンに向かう。
「ツッコミがないと寂しいんですが。それにもう夕食の支度はほとんど出来ています」
「煮ぼうとうか。野菜も多いし風邪にはよさそうだ。まさか本当に風邪か?」
「大丈夫です。エイジン先生の行ったひどい仕打ちに抗議する意味で、少しヤンデレを装っていただけですから」
「回りくどい抗議だな。あんたが何もしなけりゃ、俺だって何もしないんだから安心しろ」
イングリッドは再び目に光を戻し、熱々の煮ぼうとうをてきぱきと用意すると、エイジンと差し向かいで夕食を取り始めた。
「正直言って、シャワーの後で裸でウロチョロするのは控えた方がいいぞ。湯ざめしない内に大人しく寝た方がいいと思う」
食べながら、エイジンが心配とも嫌味ともつかぬ事を言う。
「やるなと言われるとどうしてもやりたくなる、人の性を見越した作戦ですね、分かります」
「分かった。じゃあ思う存分裸でいてくれ」
「メイドと言えど、うら若き女性に向かって何たる破廉恥な発言でしょう。しかし、ご命令とあれば致し方ありません」
「どっちにしても脱ぐんじゃねえか。そんなに裸がいいのか。まあ一人暮らしだったらその気持ちも分からん事もないが、ここにはうら若き男もいるんだから自重しろ」
「そうですね。もしエイジン先生が私と一手立ち合って頂けるのでしたら、大人しく服を着ない事もないのですが」
ちら、と意味ありげにエイジンを見るイングリッド。
「断る。それと、ちゃんと服は着ろ」
「一手立ち合うと言っても、性的な意味ではありませんよ」
「なおの事断る」
「では今晩、何が起こるかは保証しかねます」
「何の話だ」
「うら若き女性があんな辱めを受けて、何も報復しないとお思いですか、エイジン先生」
イングリッドはこれみよがしに舌舐めずりをして見せた。
「辱めと言うより自業自得なんだけどな。どんな仕返しを考えているのか知らんが、やめてくれ」
「やめろと言われると、やりたくなるのが人の性です」
「それに、そのくだらない報復とやらをやめるなら、あんたの元格闘家としての探究心に敬意を表してやらんでもない」
「はて、何をして頂けるのでしょうか」
「明日、グレタ嬢に古武術の理論について要点だけ説明する予定なんだが、もしあんたが大人しくしてくれるのなら、そこに立ち合う事を許可してやってもいい」
「大人しくさせて頂きます」
「即答かい」
そしてその言葉通り、イングリッドはその晩、パジャマの前をきちんと締めて布団を肩まで掛けて眠り、エイジンに何もちょっかいを掛けて来なかった。
翌朝起きると、既に布団にイングリッドの姿はなく、既に張り切って朝食の支度に取り掛かっており、
「現金なやっちゃな」
エイジン先生は呆れた様につぶやいた。




