▼409▲ 子供の頃花火をバラして火薬を瓶に詰めて川原で大爆発させてもう少しで死人が出たかもしれない話
「いいのか、お嬢ちゃん? それこそ正にピーターのオッサンの思うツボだぜ?」
飄々と問い返すエイジン。
「おとといの晩に約束したでしょう? 『私かテイタムのどちらか一人でもやめたくなったら、その時点でこのゲームは終了』、って。自分勝手なのはよく分かってるわ、でも……」
声を詰まらせるジェーン。
そんなジェーンを見て、優しく微笑み、
「ああ、そういう約束だった。じゃ、お嬢ちゃんの望み通り、この狂言誘拐ごっこはここでおしまいにしようか」
あっさりとそのリタイア宣言を受け入れた後、
「テイタムお嬢ちゃんも、それでいいか?」
ジェーンの隣のテイタムに確認するエイジン先生。
「はい。ジェーンがそれでいいなら、私も構いません」
同じくあっさりと答えるテイタム。
「よし、決まった。二人は明日、それぞれの家まで送って行く。今日の所は一旦ガル家に戻ろう」
「色々迷惑かけて、ごめんなさい……私、とんでもない事をしでかしてしまって……」
今にも泣きそうなジェーン。
エイジン先生はソファーから立ち上がり、ジェーンのそばへやって来て、その頭をぽんぽんと軽く叩き、
「気にすんな。そこにいるグレタ嬢なんか、お嬢ちゃんの何倍もとんでもない事を、今までに色々しでかしてるんだぜ」
「エイジン!」
余計な事を言ってグレタに怒られた後、
「だいたい、子供なんてのはとんでもない事をしでかして大人に迷惑をかけるモンだ。今お嬢ちゃん達を必死に探してる五十人の捜索員だって、子供の頃は大なり小なりとんでもない事をやらかしてるに決まってら。
「『自分はそんな事してない』なんて言う奴がいたら、そいつの実家に乗り込んで親から根掘り葉掘り聞き出してやる。規模や性質の違いはあれ、絶対何かやってるに決まってるから。思い出すだけで、『うわああああ!』って叫びたくなるトラウマ級のやつをな!
「ピーターのオッサンなんか、ガキの頃はその手のエピソードに事欠かないだろうよ。偉そうな説教をする奴程、何かしら悪い事してるもんだぜ。だから、その手の説教は話半分に聞き流すがいいさ。表向きは神妙にしつつ、『そう言うテメエは何様だ』って、心の中で唱えながらな!
「で、子供がしでかしたとんでもない事の後始末をしてやるのが大人の役目ってモンだ。ただ、迷惑をかけっぱなしって訳にはいかなくて、いずれその子供が大人になった時に、今度は自分が子供のしでかしたとんでもない事の後始末をやらされる羽目になる。そんな風に迷惑と後始末のバトンは順々に回って行くんだよ。
「だから、子供がとんでもない事をしでかして大人に迷惑をかけたとしても、必要以上に気に病む事はない。いつか自分が大人になった時、子供がしでかしたとんでもない事の後始末をしてやればいいのさ」
このしょげきった十二歳の少女を励ますべく、得意の屁理屈を並べ立てた。
ジェーンは少し気力を取り戻し、
「……エイジンさんはいい人ね。グレタとイングリッドが好きになる訳だわ」
そう言って、少し笑って見せた。
「よーし、元気になったな。じゃ、ちょっと待っててくれ」
エイジン先生はリビングスペースの隅に置いてあった大きなバスケットケースの方に行き、そこからメモ帳とボールペンを取り出して戻って来ると、
「ジェーンお嬢ちゃん、テイタムお嬢ちゃん、最後にそれぞれ一筆書いてくれないか?」
二人の女子小学生の目の前のテーブルの上にそれらを置き、
「何を書くの?」
きょとんとした表情で問うジェーンに、
「なーに、大した事じゃない。『私はエイジン・フナコシに対し、日本円で二千万円支払う事を約束します』、と書いてくれりゃいい。その下に自分の名前と今日の日付を入れてな。簡単だろ?」
悪い笑みを浮かべて金を要求し、ここまでのいい話を全て台無しにした。




