▼406▲ 度重なる警告を無視した挙句に食らうアカウントBAN
「で、どうする? こいつが使い物にならなくなった今、次は五十二体の兵隊の人形のお出ましか?」
ずっと土足で踏みつけていた、仮にも自分の師匠の頭からようやく足をどけ、ピーターにふてぶてしく問いかけるエイジン先生。
「いえ、そんな事はしませんよ。賢いあなたの事ですから、兵隊の人形がキャンピングカーに突入する前に、あたしからリレーアタック用の機械を奪い取るでしょうね。力ずくで」
肩をすくめ、手にしていた機械をコートのポケットにしまうピーター。
「察しが良くて助かる。俺としても中年のオッサンをボコるのは心苦しいからな」
さっきまで中年のオッサンである師匠を完膚無きまでにフルボッコにしていたエイジン先生がしれっと言う。
「ナスターシャさん、プランBは中止します。人形を回収してください」
「分かりました。『自分の為に踊りなさい』」
ピーターに促されてナスターシャが短い呪文を唱えると、地面にうずくまる小汚いホームレス、もといエイジン先生の記憶の中の「最強の師匠」は黄色く光る靄に包まれ、その靄が消えると元の薄茶色いプラスチック製のダミー人形の姿に戻っていた。
フルボッコの際に流れ出た大量の血はきれいさっぱり消えていたが、ダミー人形自体の損傷は激しく、
「人形の修理費用はレンダ家に請求してくれ。あっちが悪いんだ」
それを見たエイジン先生は、すぐに責任転嫁する事を忘れなかった。
「もちろん、こちらでちゃんとお支払いしますよ。大切な人形をあんな風にしてしまって、どうもすみませんでした、ナスターシャさん」
申し訳なさそうに謝るピーター。
「大丈夫です。ダミー人形は理不尽な目に遭って傷付くのが仕事ですから」
そう言って、うずくまったまま動かないダミー人形の方へフラフラとした足取りで歩み寄り、よっこいしょ、と抱き起こしてから、
「怒ってますか?」
まったく恐れる様子もなく、人形を破壊したエイジン先生を眠そうな目で見るナスターシャ。
「いや、悪党を成敗した後は気分がいいぜ」
まったく怒っている様子もなく、自分の師匠を悪党呼ばわりするエイジン先生。
「これも仕事なので」
微妙に会話のキャッチボールになっていない事を言うと、ナスターシャはダミー人形を抱えてフラフラとポンコツ車の方へ戻って行った。
エイジン先生はピーターの方へ向き直り、
「さて、気は済んだか、ピーターさん? 普通、ここまで失礼な事をされたら厳重に抗議する所だが、あんたの仕事熱心に免じて見逃してやるよ」
上から目線で言い放つ。
ピーターはため息をつき、
「実に残念ですよ。ジェーンお嬢様とテイタムお嬢様の為にも、出来れば穏便に済ませたかったんですがねえ。正直言って、あたしにはもう打つ手がありません」
そう言って、頭を軽く横に振り、
「ま、誰しも間違いはあるもんだ。今日はもう家に帰ってゆっくりと寝た方がいいぜ。そうすりゃおかしな妄想も消えるさ」
と、偉そうにのたまうエイジン先生を真っ向から見据え、真剣な口調になって、
「なので、この事件は警察の手に委ねる事にします。もちろん正式に捜査令状を取って徹底的にやってもらうつもりです」
エイジンが最も恐れていた最後通牒を突きつけた。
「覚悟してください、エイジンさん」




