▼396▲ 大草原の小さな家の前で撃ち殺されそうな服装
廃工場を出て、緑豊かな山の中のカーブの多い道を行く事約三十分、ついに目的地のライデル湖が見えて来た。
監視カメラに映るのを避ける為、整備された広い駐車場の数百メートル程手前で、グレタ、ジェーン、テイタム、エイジンの四人は豪華な巨大キャンピングカーから降り、
「ではまた、ボート乗り場で合流しましょう」
そのまま運転を続けるイングリッドとは、一旦お別れとなる。
「今までの所、後をつけられている気配はないが、念の為、お嬢ちゃん達は帽子を目深にかぶっててくれ」
辺りを注意深く見回した後で、ジェーンとテイタムに用心を促すエイジン先生。
「了解よ」
「了解です」
そう答えて、水色と白のギンガムシャツに茶色いスリムパンツ姿のジェーンと、白地に赤い横縞のシャツに緩いオーバーオール姿のテイタムが、お揃いのつば広の麦わら帽子をそれぞれ両手で、ぐい、と引き下げる。
この二人と一緒に、小花模様の白いブラウスにジーンズ姿のグレタが並んで歩く様子を眺めながら、
「セレブな御令嬢一行と言うよりは、西部開拓時代の大草原に小さな家を構えて住んでそうだな、俺達」
と茶化す、青いネルシャツにダークグレーのパンツ姿のエイジン先生。
「そういうのもいいわね、楽しそうで」
気楽な口調で答えるグレタ。
「大変だぞ、と言いたい所だが、あんたは窮屈なお嬢様より、そっちの方が性に合ってるかもな」
「襲撃して来るならず者達を、華麗なガンファイトで撃ち殺しまくるのね。西部劇のヒーローみたいに」
「違う、そういう意味じゃない」
本当に性に合ってそうで怖い。
そんな軽口を叩きながら、一行が湖の貸しボート乗り場までたどり着くと、既にバスケットケースを手にしたイングリッドが待っており、
「必要な手続きは済ませておきました。どうぞ、そのままボートにお乗りください」
白鳥を模したスワンボートがずらりと並ぶ桟橋へと案内する。
「ああ、ありがとうよ。しかし――」
「何でしょうか? 言いたい事がおありなら、遠慮なくどうぞ」
「いや、大した事じゃないんだが、グレタ嬢に撃ち殺されそうだな、と思って」
黒いウエスタンハットをかぶり、黒いスカーフを首に巻き、白シャツの上に黒ベストを着こみ、下も黒いジーンズという、いかにも西部劇に出て来るならず者っぽいイングリッドの格好を見ながら、しみじみと言うエイジン先生。
「私、何か失礼な事をしてしまいましたか、グレタお嬢様?」
「気にしないで。失礼なのはエイジンの方よ」
「なら、いつもの事ですね」
納得するポンコツ主従。
エイジン先生はあえて何も言わない。




