▼395▲ 廃工場と豪華キャンピングカーに見る格差社会の構図
一同を乗せた白いワゴン車が発進すると、
「とりあえずカーステでヒップホップをガンガン鳴らすのはやめろ! 目立つし!」
助手席から運転席のイングリッドを怒鳴り付けるエイジン先生。別にキレている訳ではなく、怒鳴らないとすぐ隣にすら聞こえない程BGMがやかましいのである。ある意味走行中の戦車の内部の状態に似ている。
「エイジン先生の世界で黒いスモークフィルムを貼った白いワゴン車と言えば、コレを外に聞こえる位の大音量でガンガン鳴らすのが定番ではないのですか!?」
騒音の中、運転しながら怒鳴り返すイングリッド。
「それはごく一部の迷惑な定番だ! 俺達はアタマが悪そうな奴が大体友達な人種じゃない!」
「分かりました。では代わりに軍歌をガンガン鳴らしましょう!」
「そういう意味じゃない! ってか、それは別の人種だ!」
危ないネタにツッコミを入れつつ、カーステのボリュームを下げさせるエイジン先生。
ようやく常識的な静けさを取り戻した車がカントリーロードから高速道路に戻り、約一時間程走行して山のふもとまで来ると、
「もう一度車を乗り換えて来ますので、ここでしばらくお待ちください」
高速を降りて少し離れた所にある、かなり前に操業を停止したと思しき廃工場の駐車場で、グレタ、ジェーン、テイタム、エイジンを降ろし、イングリッドはその場を後にする。
「ここなら人目も監視カメラもない。まあ、お嬢ちゃん達にとってはあまり面白くないかもしれないが、ちょっと我慢しててくれ」
エイジンがそう言うと、
「そんな事ないわ、面白いじゃない! こんな所に来たの初めてよ」
「色々な機械やタンクやパイプや鉄骨が、独特の空間を形作ってますね」
意外にもジェーン十二歳とテイタム九歳は、自分達のセレブな日常からかけ離れた、この誰もいない廃工場の不思議な光景に目を輝かせていた。
「二人共、廃墟マニアの素質があるな」
そんな二人の女子小学生を見ながら、両腕を組んで、うんうんと頷くエイジン先生に、
「おかしなマニアにしないで!」
その手のマニアにあまり理解がないグレタが、割と失礼なツッコミを入れる。
危なくない様に気をつけながら、四人で埃っぽい工場の内部を見物している内に、車を乗り換えたイングリッドが戻って来た。
「お待たせしました。さ、どうぞお乗りください」
駐車場に現れたのはちょっとした大型バス程もある巨大な白いキャンピングカーで、側面のドアから中に入ると、
「車の中とは思えんな、こりゃ」
そこには豪華なホテルを思わせる、リビング、キッチン、シャワールーム、トイレ、寝室の全てが備わった居住空間が広がっており、ちょっと前まで無職だったエイジン先生を驚き呆れさせる。
一方、グレタ、ジェーン、テイタムの三令嬢は、そんな無駄にゴージャスな車内に驚きもせず、ごく普通にリビングの革張りのソファーに腰掛け、
「いいわよ、イングリッド。車を出してちょうだい」
グレタの号令一下、最終目的地である湖に向けて出発と相成った。
「ヒップホップを大音量で鳴らしてやりたくもなるわ、こんな世の中じゃ」
平然としているセレブな三令嬢を見ながら、ちょっとポイズンなエイジン先生。




