▼394▲ カントリーロードで物悲しい気分になる瞬間
翌朝、運転席にイングリッド、助手席にエイジン、後部座席にグレタの乗った車がガル家を出発し、しばらくしてから、
「特に怪しい車が後をつけて来る気配はありません」
運転中のイングリッドが真顔で淡々と宣言した。
「よし、お嬢ちゃん達、ごくろうさん。もう頭を上げていいぞ」
エイジン先生が後部座席を振り返って許可を与えると、それまで外から見えない様にグレタの横で姿勢を低くして縮こまっていたジェーンとテイタムが、ひょこっと浮上して顔を出した。
「大丈夫なの?」
まだ少し心配そうなジェーンを、
「車で移動中の俺達を監視するなら、どうしたって車で尾行するしかないが、今の所それらしき車はない。ヘリで追跡する手もあるが、上空にそれらしき影も見当たらない」
いつもの飄々とした口調で安心させるエイジン先生。
「ピーターさんは、私達に追っ手を差し向けて来ると思いますか?」
冷静に尋ねるテイタム。
「格好のクレーム材料になる様な真似は極力控えると思うよ。ただ、あのオッサンの場合、こちらの思考の裏をかく位の事はやりかねないから、油断は禁物だ」
同じく飄々としつつも冷静に判断するエイジン先生。
「二人とも大丈夫よ。こっちにはエイジンがついてるんだから!」
ややこしい駆け引きは苦手だがその分エイジン先生に全面的な信頼を置いている、典型的な詐欺被害者グレタ。
「そうですね。今回もエイジン先生のこしゃくな悪知恵に期待しましょう」
「言い方」
イングリッドの引っかかる物言いに、すかさずツッコむエイジン先生。
それから車を走らせる事約一時間。高速道路を降り、人通りが少ないカントリーロードの道端に、グレタ、ジェーン、テイタム、エイジンを一旦降ろすと、
「では、車を乗り換えて来ます。しばらくお待ちください」
イングリッドは予約してあるレンタカーを引き取りに、少し離れた所にある店舗へと車を走らせた。
残った四人は各々小型の折り畳み椅子を広げて腰掛ける。
舗装されていない道路の両脇に草原と畑が広がるのどかな風景と、四人のピクニック用の軽装とが相まって、カントリーロードな情緒が半端ない。
「遊園地の駐車場の時みたいに、レンタカー屋の監視カメラにお嬢ちゃん達が映り込むとマズいからな。その点、ここならそんな無粋なモノはない」
のん気な口調で説明するエイジン先生。
都会の喧騒から離れた場所で、優しい風の音と鳥の鳴き声をBGMにしてのんびり待つ事約二十分、ついに白いワゴン車を飛ばしてイングリッドが戻って来た。車の外に漏れる程の大音量でヒップホップをガンガン鳴らしながら。
「チェケラッチョ」
「やかましい」
ポンコツメイドのおかしな挨拶に、すかさずツッコむエイジン先生。
カントリーロードが台無しだった。




