▼390▲ ご主人様と一緒にお風呂に入りたがる猫
夕食の後、リビングに持ち込んだノートパソコンで、明日遊びに行く湖の候補をネットで検索するエイジン先生と、その周りにへばりついて一緒に画面を覗き込みつつおしゃべりに興じるグレタ、ジェーン、テイタムの令嬢三人衆。
その姿は傍から見ると、仕事中のご主人様に構ってもらいたくてちょっかいをかけて来る三匹の飼い猫の様。
そこへ、夕食の後片付けを終えた四匹目ことイングリッドがやって来て、
「今日は皆さんでご一緒にお風呂に入りませんか? バスルームのスペースは十分ありますし」
と提案する。
ややこしい事になる前に、
「ああ、女四人で先に入ってくれ。その間に俺は条件に合う湖を選んでおく」
先手を打って、「皆さん」の中から自分を除外するエイジン先生。
「エイジン先生もご一緒にどうぞ」
「入らないから安心してくれ、お嬢ちゃん達」
しつこく巻きこもうとするイングリッドの妄言を即否定して、まだこの家の奇習に染まっていないジェーンとテイタムを安心させようとする心遣いも忘れない。
「エイジン先生の世界では、女子小学生が成人男性と一緒に入浴してもセーフではありませんでしたか?」
「大昔はそうだったらしいな。今は色々と厳しくなってるから、普通、公衆浴場とかで許されてるのは小学校に上がるか上がらないか位の幼児だけだ。地方によって条例で異なるらしいが」
「毎晩成人女性と一緒に入浴しているのに、女子小学生と入浴出来ないというのもおかしな話です」
「そもそも毎晩成人女性と一緒に入浴している事がおかしい。それに、あんたらはもう感覚が麻痺してるかもしれないが、女が男と一緒の風呂に入らされるのはれっきとしたセクハラだ」
「分かりました。では、エイジン先生だけ目隠しをして入浴してください」
「何その少年向けお色気漫画にありがちなパターン」
「石鹸で滑って転んでヒロインの胸の谷間に顔からダイブがお約束ですね」
「実際問題として、風呂場で転ぶのってすごく危険だよな。下手すると死ぬぞ」
「では足下が見える様に、目隠しを少し上にずらす事を許可します」
「インチキ透視能力者か俺は。目隠しの意味ねえよ。アホな事言ってないで、さっさと女四人で入って来い」
しっしっ、とダメイドを追い払う手つきをするエイジン先生。
「では、付き合いの悪いエイジン先生は放っておいて、皆さんバスルームへ参りましょう」
ここまでの一連のアホなやりとりを黙って見ていた令嬢三人衆を促すイングリッド。
「そうしてくれ。ところで、皆の寝巻は俺が用意した三毛猫の着ぐるみパジャマでいいのか?」
「いいわよ」
「いいわ」
「いいです」
グレタ、ジェーン、テイタムに特に異存はなく、
「昨日に引き続き、今日もエイジン先生の性癖を全力で尊重させて頂きます」
イングリッドも妙な言い回しで承諾する。
「性癖とか言うな。ジェーンお嬢ちゃんとテイタムお嬢ちゃんは風呂から出たら、向こうに送る近況報告用の写真を撮らせてくれ」
「了解したわ」
「エイジンさんにお任せします」
素直に指示を受け入れるジェーンとテイタム。
「いかに脅迫状に添付する写真とは言え、お風呂から出たままの姿での撮影は、やや過激過ぎはしないかと」
「そんなモン送ったら先方が激怒して交渉が決裂するぞ。可愛らしい三毛猫着ぐるみパジャマ姿での撮影だ」
ボケるイングリッドとツッコミを入れるエイジン先生。
「軽いメイドジョークです。では、私達はこれからお風呂に参りますが、絶対に覗かないでくださいね、エイジン先生?」
「ああ、そんな失礼かつ破廉恥な真似はしない」
「絶対ですよ。絶対に覗かないでくださいね?」
「くどい。分かったから、さっさと行け」
「言うまでもありませんが、これは前フリです。くれぐれもバカ正直に『覗かない』などという選択肢を」
「言うまでもないが、ガル家の誇り高きメイドとして、くれぐれも客人に対して失礼のない様にな!」
真顔でボケ続けるイングリッドに、とうとう声を荒げてツッコミを入れるエイジン先生を見て、
「エイジンさんがどうしても一緒に入りたいのなら、私はいいけど?」
「私も構いません」
からかう様な口調でジェーン十二歳とテイタム九歳が茶々を入れる。
「ほら見ろ。あんたのせいで、いたいけな子供達に悪影響が出始めた」
ついため息を漏らすエイジン先生と、楽しそうに笑う四匹の女共。




