▼39▲ 無言の仕返し
「昨晩は二人共御苦労様。おかげでドッキリは大成功だったぜ」
翌朝、稽古場に向かう途中で、エイジン先生が愉快そうにアランに話し掛けた。
「お役に立てたのなら何よりですが、あの後アンヌが大変でした」
少し疲れた表情で、アランが答える。
「ははは、『抱き付かれてる時、少し嬉しそうな顔してなかった?』とか、『本当はイングリッドの方が好みなんでしょ?』とか、痛くもない腹をしつこく探られた、って顔だな」
「よく分かりましたね。まあ、そんな所です」
「何だかんだで妬かれてる内は大丈夫だから安心するがいいさ。ともかく、これでイングリッドの抱えている不発弾は無事処理出来た。もっとも、俺に対する仕返しは忘れなかった様だけどな」
「何かされたんですか?」
「今朝起きたら、横にイングリッドがいた。パジャマは着てたし、特にこちらの体に触れてはいなかったが」
「まあ、全裸で抱き付かれて体中をまさぐられるよりはマシですね」
「その代わり、半身を起こして俺の寝顔をじーっと見詰めていたらしい。かなりの時間、無言で」
「怖っ」
「その後、平然と、『おはようございます、エイジン先生。朝食の支度をするので、しばらくお待ちください』と言って、何もせずに出て行ったんだが、却って不気味だった」
「ヤンデレ化したんでしょうか。刃物にはくれぐれも気を付けてください、エイジン先生」
「ヤンデレが刃物を持って向かって来たら、武術の達人でも命が危ない」、というのは異世界でも常識らしい。




