▼387▲ 口を大きく開いておねだりする女達
ピーターとの本日二度目の会見を終えたエイジン先生が、すっかり暗くなったガル家の敷地を歩いて小屋まで戻って来ると、
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
エイジンと同じ濃紺の作務衣を着たイングリッドが、濃紺の三角巾を頭にかぶり、黒い前掛けを腰に着けた状態で恭しく出迎えた。
「ただいま。『おかえりなさいませ』っていうより、『へい、らっしゃい!』な格好だな」
「今日の夕食は、皆でお好み焼きを焼いて食べる事になりました。エイジン先生もお揃いの三角巾と前掛けを着けて、気分を盛り上げてください」
「ああ、自分で焼くのか。そりゃいい、子供が喜びそうな趣向だ」
「エイジン先生がお望みなら全員裸エプロンでも構いま」
「油が素肌にはねると熱いからやめとけ」
寝室でイングリッドの用意した三角巾と前掛けを着けてからキッチンに来てみると、イングリッドはもちろん、グレタ、ジェーン、テイタムも同じ服装でエイジンを待っていた。
「格好はかなりお好み焼き屋の店員っぽいが、この中で実際に焼いた事がある人は?」
エイジンが尋ねると、
「ないわ」
「ないけど」
「ありません」
即答する、グレタ、ジェーン、テイタムの令嬢三人衆。見かけ倒し。
「ご心配なく、私がお嬢様方をサポート致します。そんな訳で、女四人で楽しく焼いている間、エイジン先生は邪魔にならぬ様にホットプレートの隅っこでちまちま焼いてください」
数の力を背景にエイジン先生を迫害するイングリッド。
「俺は女性専用車両にうっかり乗った男性客か」
「大丈夫よ、エイジン。こっちで作った分をおすそ分けしてあげるから」
「私もあげるわ」
「良ければ私も」
心優しいと見せかけて、単に面白がっている令嬢三人衆。
「今日の夕食のテーマは、『熱々のお好み焼きをよってたかってエイジン先生に「あーん」してあげる美女四人のハーレム』、に決定しました」
一番面白がっているイングリッド。
「それハーレム違う。リアクション芸人の熱々オデン芸や」
嫌な予感しかしないエイジン先生。
そうこうする内にホットプレートも程良く熱くなり、各自、丼で好きな具と混ぜ合わせたお好み焼きの溶き粉を少しずつ焼き始めた。
「はい、エイジン、あーん」
「焼き立てを召し上がってください、エイジン先生」
「エイジンさん、これどうぞ」
「エイジンさん、よかったら、食べてください」
「四人同時にやるなよ! それとオデン芸って、実際は熱くないオデン使ってるからな。一旦皿にとって冷ませ。こんな風に」
四方向からの「あーん」一斉熱攻撃を回避してから、自分がプレートの隅で焼いた分を一旦皿に移し、コテで四つに切り分け、
「ほら、皆皿を出せ」
それらを四人に分けてやろうとする、面倒見のいいお兄ちゃんモードのエイジン先生に対し、
「あーん」
「あーん」
「あーん」
「あーん」
申し合わせた様に口を大きく開けて催促する女共。
「ツバメのヒナかあんたら」
仕方なく一つ一つ息を吹きかけて冷ましてから、四人の女の口にゆっくり挿入してやるエイジン先生。もちろんお好み焼きを。
「あーん」
「あーん」
「あーん」
「あーん」
「もうねえよ。ってか、自分で焼いた分があるだろ。冷めるぞ」
おねだりをやめない四人の女の口に、それぞれの分を順繰りに入れて回るエイジン先生。もちろんお好み焼きを。
「はい、おしまい。皆で次の分を焼こうぜ」
「あーん」
「あーん」
「あーん」
「あーん」
「俺に全部焼かせる気か」
「もしくは、『そんなに欲しけりゃ、俺のコレをくれてやらぁ!』と言って、エイジン先生のフランクフルトを」
「子供が喜びそうな趣向が台無しだ!」
イングリッドの品の無いネタに即ツッコミを入れ、最後まで言わせまいとするエイジン先生。もう遅かったが。
しかし、そんな二人のやりとりを見て笑うジェーン十二歳とテイタム九歳。ダメイドの品の無いネタにもすっかり慣れてしまったらしい。




