▼381▲ バニーガールの衣装が似合う男
遅めの朝食を済ませたエイジン先生は、ジェーンとテイタムを台車に乗せて段ボール箱をかぶせると、グレタとイングリッドと一緒に、また例の倉庫へスネークな感じで移動した。
四人の女がキャッキャウフフしながら服を選んでいる間、漫画が置いてあるコーナーで時間を潰そうと企むエイジン先生を、
「エイジンも一緒に選ぶの!」
テンション高めのグレタが、駄々っ子の様に袖をつかんで引き戻す。
「女は女同士で楽しくやってくれ。俺は女の子の好きそうな服は、よく分からんから遠慮しておく」
何とか逃れようとするエイジン先生。
「では、このTシャツをハサミで極限までズタズタにしてから安全ピンで留めて、見えそうで見えないと見せかけてポッチ丸見えな攻めのパンクファッションを、この小さなお嬢様方に」
「分かった。一緒に選ぶから、小さなお嬢様方をアナーキーな方向に導くのはやめてくれ」
パンクメイドの暴走を抑える為、逃げるに逃げられなくなったエイジン先生。
服選びを一通り終えると、またスネークな感じで小屋に戻り、皆で昼食をとってから、
「私はこれから小屋の掃除をしなくてはなりません。それが済み次第、そちらに向かいます」
メイドとしての仕事がまだ残っているイングリッドと、
「私は屋敷に戻って小さい頃着てた服を取って来るから、先に行ってて!」
倉庫にあった服だけでは飽き足らず、自分のお古のドレスまで引っ張り出そうとするグレタ抜きで、ジェーン、テイタム、エイジンの三人は稽古場へとスネークな感じで移動する。
エイジン先生が稽古場の一角に撮影用の大きな白い背景布とライトを設置し、巨大な交換レンズを装着した一眼レフのデジカメを三脚で固定していると、
「じゃあ、始めるわよ! 撮影はお願いね、エイジン」
テンション高めのグレタが、自分のお古のドレスが何着か入っている紙袋を抱えてやって来た。お古と言っても、ほとんど袖を通していない新品同様の高価な特注品で、倉庫にあった既製の子供服とは見るからに格が違う。
「気に入ったならあげるわよ、どうせもう着る事もないし。後で自分の寸法に合わせて直してちょうだい」
気前のいいグレタに、
「いいの? ありがとう、グレタ!」
「ありがとうございます。大切に着させて頂きます、グレタさん」
喜び感謝するジェーンとテイタム。
「まるで本当の姉妹みたいだな……って、二人共ここで着替えるな、あっちでやれ」
ドレスを抱えた半脱ぎのジェーンとテイタムの首根っこをつかんで、更衣室に連行するエイジン先生。
それから女子小学生二人による、服をとっかえひっかえしてのファッションショーが始まり、最初はグレタからもらったフォーマルなドレス、続いて倉庫で選んだ可愛らしい普段着と続き、
「お待たせしました、お嬢様方。さ、次はこれをお召しになってください」
そうこうしている内に、雑事を終えたイングリッドも、子供サイズのメイド服を手にして稽古場に乗り込んで来た。
「メイドのコスプレか。でも、スカート丈がやたら短くないか?」
子供達とダメイドの間に割って入り、一応メイド服を検閲する保護者モードのエイジン先生。
「別にいいわよ。可愛いじゃない」
イングリッドが反論する前に承諾する、テンション高めのジェーン。
「まあ、着る当人がいいならいいが。一応更衣室で着て見て、無理そうだったら遠慮なく断れよ」
「大丈夫よ。テイタム、行きましょ」
ジェーンとテイタムがメイド服を受け取って、更衣室に行こうとすると、
「お待ちください、お嬢様方。他にもこの様なお召し物をご用意致しました」
そう言ってイングリッドは子供達を引き留め、持参した紙袋からさらに、ゴスロリ服、セーラー服、ナース服、魔法少女の衣装などを次々と取り出して床に並べて行った。
「ある意味、これもアキバ系だな」
呆れるエイジン先生。
「もしくはイメクラ」
「やかましい」
不穏な言葉を口にするダメイドにツッコミを入れる事も忘れない。
「極めつけはコレです」
そう言って手に取り高々と差し上げたのは、ウサ耳、蝶ネクタイ付きの白いカラー、白いカフス、白くて丸い尻尾の付いた肩出しの黒いハイレグボディースーツ、網タイツ、黒いハイヒールがセットになった、バニーガールの衣装だった。
「限度ってもんがあるだろ! 子供に着せていい服じゃねえよ、これは」
「グレタお嬢様と私の分もありますよ」
「人の話を聞け」
「エイジン先生の分もあります」
「なぜ用意した?」
「皆でバニーガールになって、一緒に記念撮影しましょう。いい思い出になりますよ」
「思い出って言うより、トラウマになりそうな写真だな」
エイジンはジェーンの方に向き直り、
「なあ、ジェーンお嬢ちゃん。このバニーガールの衣装を着た俺と一緒の写真に収まりたいと思うか?」
と問うと、
「お願い、やめて!」
想像力と感受性豊かなこの女子小学生は、そのおぞましさにドン引きして嫌がった。
「と言うわけだ。バニーガールの衣装はしまっとけ」
「あ、でも、エイジンさん以外となら大丈夫! 私も着てみたいし!」
無邪気な口調でエイジンを傷付けるジェーン十二歳。もちろん悪気はない。
「残念ですが、エイジン先生のバニーちゃんは諦めましょう」
そう言って、イングリッドが不承不承エイジン先生の分をしまおうとすると、
「待て、せっかく持って来たんだ。男でもそれが似合いそうな奴に頼んでみる」
そう言って、エイジン先生は自分の携帯を取り出し、
「もしもし、アラン君? 今稽古場でファッションショーと撮影会をやっているんだが、アラン君もバニーガールの衣装を着て参加しないか?」
「絶対に嫌です!!」
通話先のアラン君に断固として申し出を拒否されてしまうのだった。




