▼374▲ プロファイリングを利用した個人攻撃
「あんたの言う通り、仮にそんな共犯者まで用意してたとすれば、お嬢様方はかなり周到な狂言誘拐を計画してたんだな。末恐ろしい小学生もいたもんだ」
すっとぼけつつ、ピーターと向かい合ってソファーに座り、運ばれて来たコーヒーを手に取って口を付けるエイジン先生。
「そこが引っかかる所なんです。この家出事件、確かに最初はいかにも小学生がやらかしそうなイタズラだったんですが、途中から急に手口が悪質になっている様な気がしてならないんです。まるで、誰かタチの悪い大人が入れ知恵したみたいに」
もっさりした口調で所見を述べるピーター。
「タチの悪い大人、ね」
「やってる事はタチが悪くとも、案外、根は善人かもしれませんがね。家出した少女達に同情して協力を申し出た、って事もあり得ます」
「だが、こうやって暗に身代金を取ろうとしている辺り、善人のやる事とは思えんが」
「根は善人でも、仕事した分の報酬はきっちり頂くタイプなんでしょうなあ。ある意味プロです」
「誘拐のプロか。こんな事言うのはアレだが、相手がプロならお嬢様方の身の安全は百パーセント保証されたも同然だな。プロは金さえ取れれば、それ以上余計な危害を加えるなんてムダはしないし」
「随分と誘拐犯の肩を持ちますね」
「別に持っちゃいないが、お嬢様方の身の安全が何より最優先だろ。あんたの任務は誘拐犯を捕まえる事じゃなくて、二人のお嬢様を無事保護する事だ。違うか?」
「その通りです。だからいっそ、その共犯者の皆さんがお嬢様達に、『こんなバカなイタズラは今すぐやめて、とっととお家にお帰り』、って説得してくれないもんですかねえ。そうすりゃ、あたしも安心してぐっすり眠れるんですが」
「共犯者の『皆さん』?」
「共犯者は、手紙と写真を印刷して封書で郵便局に出す役の他にも、まだいるはずです。少なくとも、その写真を撮った人間が別に一人います」
「セルフタイマーで撮った可能性は?」
「ジェーンお嬢様の気性からしてありそうもないですねえ。ここだけの話、ジェーンお嬢様は、その、言い方は悪いんですが、いわゆるはねっかえり娘で、さらに言うと、親御さん達とあまり仲がよろしくなくて」
「家出する位だからな。ありそうな話だ」
「で、もしこうやって自分達の写真を自宅に送り付けるなら、もっとこう、笑顔にしても人をバカにする様な、挑発的な表情になると思うんです。性格的に」
「中指立てたり?」
「ええ、正ににそんな感じです。ところがその写真の中のお嬢様は、実に楽しそうな笑顔をしていらっしゃる。これは、よっぽど気に入った人間が、お嬢様にカメラを向けている証拠です」
「ストックホルム症候群ってやつか」
「いえ、ストックホルム症候群を起こす程時間は経ってません。あの気難しいジェーンお嬢様が短時間でここまで心を許す相手となると、そうですねえ、まず、大人っぽい人間は除外されます。所詮は子供とあからさまに見下して、居丈高になって言う事を聞かせようとしたり、上辺だけ優しそうにして懐柔しようとしたり、言い分を無視して説教を始める様な人には、まずこんな笑顔は見せません」
「ああ、何となく分かる。ウチのグレタお嬢様と同じタイプだ」
「この写真の撮影者はそう、どこか子供っぽい所のある人物でしょうね。相手が子供でもその言う事にきちんと耳を傾けてやり、多少のおふざけを咎めるどころか一緒になって羽目を外してみたり、会社勤めは無理でも人一倍人生を楽しんでいる無職、と言った所でしょうか」
「おい、やめろ。その攻撃は俺に効く」
ピーターの的確過ぎるプロファイリングを聞かされ、コーヒーがまずくなるエイジン先生。




