▼371▲ スネークの様に移動する少女とスネークの様にしつこいオッサン
「ねえ、これ、どうかしら?」
「似合ってますか? 変じゃないですか?」
吟味して選んだ大量の子供服を試着コーナーに持ち込み、着替える度に仕切りのカーテンを開けて感想を求めるジェーンとテイタムに対し、
「お二人共、とてもお似合いですよ」
「ああ、似合ってる、似合ってる」
服売り場の店員の様に笑顔でどこまでも愛想よく付き合うアランと、妻の長い服選びに付き合わされてダレて投げやりになって来た夫と言った態のエイジン先生。
こうして大量に試着した中から厳選した数着を、柴犬の着ぐるみパジャマと共に紙袋に詰め込むと、
「じゃあ、ありがたく頂いて行くわ」
「ありがとうございます。服を買う手間が省けて助かりました」
シンプルな水色のネルシャツと肌にぴっちりフィットしたジーンズ姿のジェーンと、ブラウン系のグラデーションのチェックシャツに緩いオーバーオール姿のテイタムが礼を述べた。
「二人共、男の子っぽい服が好きなんだな」
投げやりな様でいて、ちゃんと二人の趣味嗜好をチェックしていたエイジン先生。
「そういう訳でもないけど、昨日の今日でまだ油断出来ないじゃない。何かあっても、すぐ走って逃げられる様な服装にしておかないと」
「用心に越した事はありませんから」
「うむ、いい心掛けだ」
家出娘の狡知を褒めるエイジン先生。
「とは言うものの、屋外の移動の時だけ用心していれば、そこまで神経質になる事もないぞ。遠慮なく好きな服を着てて構わないからな」
「ピーターさんが、何か仕掛けて来ないでしょうか?」
楽観的なエイジンにテイタムが尋ねる。
「仕掛けて来るだろうな。だが、小屋の中にまでは踏み込ませないから安心しろ。あのオッサンも、この屋敷への出入り禁止を食らう口実を作る様なバカな真似はしないだろう」
「ならいいけど。でも、ピーターをあまり甘く見ないで」
少し不安そうなジェーン。
「あのオッサンを甘く見る程うぬぼれちゃいねえよ。が、お嬢ちゃん達が賢く行動してくれるなら何とかなるさ。みんなで力を合わせて、この誘拐を成功させようぜ!」
良い事を言っている様でいて全く言っていないエイジン先生。
「もちろん、アラン君もな!」
「乗り掛かった船です。ここまで来たらエイジン先生を信用するしかありません」
巻き添えを食ったアランが力なく微笑む。
「失敗したら全員逮捕だけどな!」
「だから、縁起の悪い事を言うのはやめてください!」
力なく微笑む余裕すらなくなって青ざめるアラン。
「冗談だ。さて、当面の服も調達した事だし、俺はまたスネークな感じでお嬢ちゃん達を小屋に運ぶから、アラン君はここの後始末を――」
そう言いかけた時、エイジン先生の携帯が鳴った。
「お、イングリッドからだ。朝食の用意が出来たらしいな。もしもし」
「女子小学生に服を着せたり脱がせたりしてお楽しみの所申し訳ありません、エイジン先生」
「そんな事やってねえよ! ちゃんと試着コーナーで自分達で着替えさせてるから」
「仕切りのカーテンを開けたままですか? 変態ですね」
「閉めさせてるわ! あんたと一緒にするな」
「軽いメイドジョークです。それはそれとして、良い知らせと悪い知らせがあるのですが」
「良い方から教えてくれ」
「朝食の支度が出来ましたので、お嬢様方を一旦こちらへ戻してください」
「ちょうど服選びが終わった所だよ。すぐ戻す。で、悪い方は?」
「たった今、お屋敷の方へピーター様がお見えになられました。エイジン先生との面会を要求されていますが、いかがなさいますか?」
「分かった。応接室に通してくれ。こっちは朝食抜きになるが、あのオッサンを一人で放置しておくのも不安だ。すぐに会って来る」
「いつもでしたら、エイジン先生がお戻りになるまで朝食を待つのですが」
「育ち盛りの子供達にはしっかり食わせないとな。いいよ、皆で先に食べててくれ。お嬢ちゃん達はアラン君に届けさせる」
「了解しました。エイジン先生はしばらくご飯抜きと言う事で」
「悪さをした飼い犬か俺は。俺の分もちゃんと取っといてくれよ。じゃあな」
通話を終えたエイジンは、アランに向き直り、
「ってな訳だ。すまないが、この子達に段ボールをかぶせてスネークな感じで台車で小屋まで運んでやってくれ。くれぐれも中身を他の使用人に見られない様にな」
と言い置いて、自分は早々に屋敷へと向かった。
「『スネークな感じ』って……?」
元ネタが分からないまま、ジェーンとテイタムを台車に載せるアラン君。




