▼370▲ 犬の訓練士もしくはオカン系男子
翌早朝、いつもの作務衣に着替えたエイジン先生は、イングリッドの寝室のベッドで仲良く寝ているジェーンとテイタムを起こしに行き、
「おはよう。今からお嬢ちゃん達には、倉庫に輸送される二体のぬいぐるみになってもらう。他の使用人に見られるとまずいから、向こうに着くまで顔を出さない様に」
と言い含め、寝ぼけ眼の二人を柴犬の着ぐるみパジャマ姿のまま玄関に誘導し、そこに用意しておいた台車の上に載せると、上から大きな段ボール箱をかぶせ、
「台車から落ちない様に気をつけろ。じゃ、行くぞ」
例の倉庫に向けて、メタルでソリッドな輸送ミッションを開始した。
「こちらエイジン、潜入に成功した」
「おはようございます、エイジン先生。その箱の中にお嬢様方が?」
倉庫の搬入口を開けて待っていたアランが、台車を押して入って来たエイジンの小ボケをスルーして尋ねる。
「ああ、アラン君は元ネタ知らないのか。まあいい。とりあえず、外から見えない様に扉を閉めてくれ」
元ネタを知らないアランが、一体何の事だろう、と軽く首をかしげつつ搬入口を閉め、エイジンが段ボール箱を持ち上げると、
「さ、もう出ていいぞ、スネーク」
「誰がスネークよ」
「あ、おはようございます、アランさん」
中で身を潜めていた二匹の柴犬、もといジェーンとテイタムが現れた。
この二人を倉庫内の子供服が置いてあるコーナーへ連れて行き、
「この中から好きなのを選んで、それに着替えてくれ。選んだ服は進呈する」
エイジンが言うと、
「本当にいいの?」
スーパーのお菓子売り場で母親に、「好きなの買っていいわよ」、と言われた幼児の様に、テンションが上がるジェーン。
「なあに、遠慮はいらない。後でそれぞれの親御さんから、一人アタマ二千万円ずつもらう予定だしな!」
気前がいいと見せかけて、全然気前がよくないエイジン先生。そもそもこの倉庫の中にある物は、全てガル家の所有物である。
すぐにジェーンとテイタムは水を得た魚のごとく、楽しそうに服選びに熱中し始め、
「やっぱり、こういう所は女の子ですね。男の子の倍以上は服選びに時間をかけそうな気配です」
二人を微笑ましげに見守るアランが、そんな感想を漏らす。
「ま、女にとっちゃ立派な娯楽だからな。男の子が模型屋でいつまでもプラモの箱を品定めしてるのと同じだ。って、おーい、そこで着替えるな! ちゃんと試着コーナーがあるから!」
その場で着ぐるみパジャマを脱ぎ出す二人の女子小学生を、あわてて止めに行くエイジン。
「すっかり保護者ですね、エイジン先生」
二匹の半脱ぎ状態の柴犬の首根っこをつかんで試着コーナーへ連れて行くエイジンを見ながら、微笑むアラン。




