▼37▲ 作られた修羅場
全裸でベッドに侵入したイングリッドは、むこうを向いて寝ているエイジン先生の背中に抱き付き、肩、腕、腰、尻、太ももの肉付きを確かめる様に上から下まで執拗に撫で回した後で、寝巻用の作務衣の胸元に手を突っ込んで直に胸をもみしだき始める。
通勤ラッシュ時の電車内の痴漢でも、普通ここまではやらないだろう。エロ漫画ならともかく。
そんな風にイングリッドがやりたい放題の痴女行為に励んでいると、寝入っていたとばかり思っていたエイジンが、イングリッドの手首をつかみ、
「やめ……て……くだ……さい」
痴漢に遭った気の弱い女子中学生の様に、かぼそい震える声で抗議した。
その時、突然寝室の照明が点く。
ハッ、としたイングリッドが身を起こして、痴漢している相手をよくよく見れば、それはエイジン先生にあらず。
そこに寝ていたのは、エイジンの作務衣を着たアランだった。
耳まで真っ赤になっているアランは、怯えた表情で歯をカチカチと震わせて、イングリッドのお触り攻勢に黙って耐えていたのだが、ついに限界が来たらしい。
「エイジン先生だと思った? 残念アラン君でした」
開いたドアから、アランと同じ作務衣を着た本物のエイジン先生が、してやったりという表情で入って来た。
「この悪ふざけは一体どういうつもりですか?」
アランに抱き付いたまま、イングリッドがエイジンに抗議する。全裸で。
「あんたが言うな。それと、そろそろアラン君を解放してやってくれ、さもないと」
「アランから離れなさい、イングリッド!」
エイジンの言葉が終わらぬ内に、いきなりクローゼットの戸がバタンと開き、中から怒りで我を忘れた黒いジャージ姿のアンヌが、物凄い勢いで飛び出した。
「ご、誤解ですアンヌ、これは」
「アランから離れろと言ってるのよ!」
アンヌはイングリッドの肩をがっしとつかんでそのままベッドの下に引きずり落とし、イングリッドに抱きつかれていたアランも一緒に床に落っこちる。
その結果、少年漫画のラッキースケベよろしく、仰向けになった全裸のイングリッドの大きな胸の谷間に、アランの顔が埋まった。
「アラン、そんなもの見ちゃダメ!」
アンヌはそう叫ぶと、アランの顔をイングリッドの胸から引きはがし、そのまま自分の胸に押し付ける様に抱き締めた。急に首をひねられたアランの生命に別条がないかどうか心配である。
「謀りましたね、エイジン先生」
床に横たわったまま、恨めしそうにエイジンを見上げるイングリッド。全裸で。
「元はと言えばあんたが悪い」
エイジンはそう言って、アンヌからアランを引き取り、共に寝室の外に出た。
「イングリッド、あなた恥ずかしくないの、そんな格好で!」
閉めたドア越しに、アンヌがイングリッドを激しく怒鳴りつける声が聞こえて来る。
「おー、おー。女の争いってのは怖いねえ」
ニヤニヤしながらおどけた口調で言うエイジン先生。
「こんな事を考え付くエイジン先生の方が怖いです」
まだ心臓をバクバクさせつつ答えるアラン。
二人が居間でそんな事を話している間、寝室ではイングリッドがアンヌにひたすら土下座していた。全裸で。




