▼369▲ 女子小学生と価格交渉する外道
一緒に遊びたがって中々寝ようとせず、隙あらばベッドに引きずり込もうとする柴犬の着ぐるみパジャマ姿のグレタとイングリッドを、
「下手すりゃ俺達全員が逮捕されるゲームの真っ最中なんだ。頼むから自重してくれ」
と、説き伏せてようやく解放され、寝室を後にする柴犬の着ぐるみパジャマ姿のエイジン先生。
リビングに戻ってソファーに横たわり、用意してあった毛布を掛けてひと眠りしようとした所で、廊下をためらいがちに歩く足音が聞こえて来る。
エイジンが起きて暗い廊下に出て見ると、そこには不安げな表情のジェーンが柴犬の着ぐるみパジャマ姿で立っていた。今晩、この小屋の住人は全員柴犬と化している。
「何かあったのか?」
エイジンが尋ねると、ジェーンは少しほっとした表情になり、
「べ、別に。ちょっと、その、トイレに」
と答える。
「場所は分かるな? ここに廊下の照明のスイッチがあるから、夜中に通る時は遠慮なく点けていいぞ」
自らスイッチを点けてやり、灯りに照らされたジェーンのまだ少し頼りなげな顔を見て、
「でも一応案内しておこうか。おいで」
返事を待たずに歩き出すエイジン先生。
「子供にとっちゃ、不慣れなよその家で夜中にトイレに行くのって、すごく怖いもんな」
「そ、そんな事ないわよ!」
強がってはいるものの、どう見ても怖がっている様にしか見えないジェーン十二歳。
「じゃ、ドアの外で待ってるから」
「絶対に私が出るまでここを動かないでね、絶対に!」
「前フリか?」
「違うわ!」
「冗談だ。おい、廊下でパジャマを脱ぐな、中で脱げ。きれいだし広いから」
テイタムの時と同じ様なやりとりをした後、ジェーンがトイレから出るまで待ち、さらに寝室まで送り届けてやるエイジン先生。
「ごめんなさいね。寝てたのに起こしてしまって」
寝室のドアの前まで来てようやく安心したのか、素直に謝るジェーン。
「いや、こういう時は遠慮なく起こしていいからな。大事なお客様を怖がらせない様にするのも仕事の内だ」
「ありがとう。優しいのね」
「でも誘拐犯だけどな! 正に外道!」
「本物の誘拐犯じゃないわ。私達が巻き込んでしまった様なものだし」
「『身代金』をふんだくろうとしてる時点で、本物の誘拐犯と大して変わらんさ」
おどけて笑うエイジン先生。
「念の為、確認させてくれ。この狂言誘拐ゲームの勝利条件は、君とテイタムお嬢ちゃんの親御さんに、『身代金』としてそこそこの大金を支払わせる事だ。勝利した時点でゲームは終了、その後、君達が何のお咎めもなく家に帰れる様に俺が上手く手配する。そこまではいいな?」
「それでいいわ。でも、こうして巻き込んでおいて何だけれど、そんなにうまく行くかしら?」
「任せておけ。ただし」
「何?」
「もしゲームの途中で、君かテイタムお嬢ちゃんのどちらか一人でもやめたくなったら、その時点で即刻ゲームは終了だ。大事なお友達が『やめたい』と言ってるのに、無理強いはしたくないだろ?」
「そうね。そんな事は出来ないわ」
「よし、いい子だ」
ジェーンに優しく微笑んで見せるエイジン先生。
「やってる事は『いい子』と程遠い親不孝だけどね」
肩をすくめて微笑み返すジェーン。
「違いない。それともう一つ、『身代金』は俺の総取りって事でいいな? 君はお父上にダメージを与えられればいいのであって、金が欲しい訳じゃないんだろ?」
ジェーンにゲスな笑みを浮かべて見せるエイジン先生。
「いいわよ。で、『身代金』はどの位ふんだくる気?」
「レンダ家とニールキック家から、それぞれ日本円で二千万ずつ、しめて四千万円だ。結構な額だが、大事な娘と引き換えなら安い安い」
「あなたって優しいのか優しくないのか、よく分からなくなって来たわ」
肩を落として呆れるジェーン。




