▼368▲ 三匹の柴犬によるワンワン西部劇
一歩間違えば誘拐の共犯として逮捕され、人生終了待ったなしの崖っぷちに追い込まれながらも、屋敷へ戻る際にはしっかり腕を組んでイチャイチャしながら夜の庭園をゆっくりと回り道して行くアランとアンヌ。
そんなバカップルを見送ってからエイジン先生が自分の寝室に戻ると、入浴を済ませたイングリッドが一足先に戻っており、
「お嬢様、そこで上の段からこのブロックを移動させてください」
「こう?」
ベッドの上でうつ伏せに横たわるグレタに、例の立方体のパズルの解き方を教えていた。
「お嬢様、ちょっとお借りします」
エイジンに気付くや腰かけていたベッドから立ち上がり、グレタの手からまだ未完成のパズルを取り上げると、物凄い早さでカシャカシャと縦横に揃え始め、ものの一分も経たぬ内に、
「随分と懐かしいオモチャを持ち出したものですね、エイジン先生?」
立方体を面ごとにきれいに色分けして完成体を見せつけるドヤ顔のイングリッド。
西部劇で例えると、離れた所に並べて置いたいくつかの空き缶を続けざまに撃ち抜き、自分の拳銃の腕前を披露する正義のガンマンといった感じ。
「すごいわ、イングリッド!」
同じく西部劇で例えると、見事な腕前を披露したガンマンに一目惚れする酒場の歌姫といった役どころのグレタ。
「ほう、ちょっとはやるようだな」
さらに西部劇で例えると、正義のガンマンに絡む無法者役のエイジン。
ただし、三人が三人共お揃いの柴犬の着ぐるみパジャマを着ている為、西部劇風に気取れば気取る程シュールかつ間抜けな絵面になってしまっている。
「勝負です、エイジン先生。私より早くこのパズルを揃えられますか?」
そう言って、手にした立方体のパズルをカシャカシャとシャッフルした後、それを無造作にエイジン先生の方に放り投げるイングリッド。柴犬の着ぐるみパジャマ姿で。
無意味に大振りさせた片手でそれをキャッチし、
「ちょいと待ちな。あんたとの勝負にはもっといいのがあるぜ」
そう言って机の方に歩み寄り、立方体のパズルを置いてから、おもむろに引き出しを開けるエイジン先生。柴犬の着ぐるみパジャマ姿で。
「さ、こいつで勝負だ!」
エイジン先生が引き出しから取り出したのは、さらに一回り大きな立方体のパズルだった。今までのパズルの一面が三×三の九個のブロックに区切られているのに対し、このパズルの一面の区切りは五×五の二十五個へと大幅に増量されている。
「すみません。それはやった事がないので、まず解き方を教えてください」
勝負を前にヘタレる正義のガンマンことイングリッド。
「いや、俺はもうリビングに戻って寝るから。おやすみ」
素に戻って出て行こうとするエイジンを、
「エイジンもやるの!」
「勝負を挑んでおいて逃げるつもりですか、エイジン先生」
グレタとイングリッドが背後からワンワンと飛び付いて引き留める。
西部劇で例えると、歌姫とガンマンが無法者を「もうちょっと遊ぼうよ」と引き留めるという、まずあり得ないシーン。
「子供達は駄々をこねずに大人しく寝たっていうのにお前らと来たら」
そんな風に緊張感のカケラもなく更けて行く誘拐初日の夜。




