▼367▲ 八万人をタダで働かせる方法
「一体どんなゲーム? 最近面白い事がなくて退屈してたの」
エイジンの携帯からマリリンの甘くけだるい声が周囲に漏れ聞こえ、リビングの空気をほんのりピンク色に染めていく。
「電話で詳しい事は話せませんが、スリル満点のゲームです。負ければリアルで警察に逮捕されて、新聞の一面を大きく飾った挙句、社会的に抹殺されます」
ピンクな雰囲気の中、ピンクに染まる事なく最悪なシナリオを楽しげに解説するエイジン先生。
「まぁ、それは面白そうね!」
思考が色々と最悪なマリリン。
「勝利条件は、警察に逮捕される事なく相手プレーヤーから大金をゲットする事です。が、この大金、マリリンさんにとってははした金もいい所なので、マリリンさんはこのゲームに参加する事自体が報酬と言う事で、どうか一つ」
「うふふ、私をタダで使う気?」
「ええ。ぶっちゃけ、やりがい搾取、もといボランティアの精神でお願いします」
「それ、なんてエイジンさんの世界のスポーツ大会かしら?」
「まさか、そんな詐欺まがいの大会があるわけないじゃないですか」
危ないネタで笑い合うマリリンとエイジン先生。
「いいわ。参加する事に意義を見出してあげる。で、私は何をすればいいの?」
「指示を書いたメールを暗号化してそちらに送ります。暗号のパスは……そうですね、先日別荘でごちそうになった、アーノルドお手製のお菓子の名前なんてどうでしょう?」
「了解したわ。アレね」
「アーノルドと言えば、彼の足首のケガの方はその後どうよ?」
マリリンが提案を承諾したと見るや、いつものぞんざいな口調に戻るエイジン。
「うふふ、置き物みたいに大人しくさせてるから、日に日に良くなってるわ。アーノルドもこのゲームに参加させる?」
「やめてあげてくれ。元より、今回のゲームにあの大量の筋肉は必要ないから、アーノルドは引き続き置き物で頼む」
その後、少し他愛ない世間話をして通話を終えたエイジン先生は、アランとアンヌの方に向き直り、
「これでマリリン嬢も共犯だ。メールに添付した手紙と写真のデータを向こうで印刷してもらって、アーノルド以外のローブロー家の使用人に届けてもらう事にしたからな」
いい笑顔になって、これからの犯行予定を説明した。
「本当に大丈夫なんですか? マリリン嬢が裏切る可能性もあるでしょう」
通話の中で聞かされた最悪なシナリオと相まって、不安が止まらないアラン。
「大丈夫。マリリン嬢はそれが善か悪かに関係なく、『面白い』か『面白くない』かで動く性格だ。今回の場合、俺達を裏切るより、このままゲームに乗っかる方が『面白い』に決まってる」
「そもそもマリリン嬢にとっては、ハイリスク・ノーリターンなゲームですけど」
「だから『面白い』んじゃないか。あえて危険な冬山に登りたがる人達の気持ちだよ」
「私にはあの人達の気持は全く分かりません」
「じゃあ、真夏の炎天下に八時間タダ働きさせられる方がまだ分かるかな?」
「それも全く分かりません」
ボランティアは自己責任で。




