▼366▲ 解けないパズルの強引な解き方
ベッドの上に散乱する様々な色と形をした立体パズルを、そこにうつ伏せになって寝たまま一つずつ手に取ってクリアして行くテイタムと、布団の端に腰掛けてそれを見守るエイジンの姿を目にして、
「何やってるの、エイジン?」
ジェーンを寝室まで連れて来たグレタが、目を丸くしながら尋ねる。
「なに、この子が眠くなるまでの暇潰しにと思って、倉庫から取って来た俺の手持ちのパズルをやらせてみたら、ことごとく瞬殺された所だ」
憮然たる面持ちで答えるエイジン先生。
「テイタムはその手のパズルの達人よ。相手が悪かったわ」
楽しげに言うジェーン。
「その様だな。完敗だ。さ、ジェーンお嬢ちゃんも来た事だし、パズル遊びはこの位にして、早く寝よう」
ベッドの上に散らばったパズルを、机の上に移動させて行くエイジン先生。
「エイジンでもやり損なう事があるのね」
机の上から手のひらサイズの立方体のパズルを取り上げて、ニヤニヤ笑うグレタ。
そのパズルをエイジンは、ひょい、と奪い取り、縦横にカシャカシャとシャッフルして、面ごとに揃っていた色をバラバラにした後、
「さあ、元の状態に戻せるかな?」
いい笑顔でグレタの手に戻した。
「六つの面をそれぞれ同じ色に揃えればいいのね? 簡単よ」
乗り気になってカシャカシャやり出したものの、二面揃えるのが精一杯で、そこから先へ進めなくなるグレタ。
「二人ともおやすみ。ここに置いてある立体パズルは自由に遊んでていいけど、あまり夜ふかししない様にな」
ジェーンとテイタムにそう言って、パズルに夢中なグレタの首根っこをつかんで寝室を出て行くエイジン先生。
「それ、テイタム嬢にやらせたら五分でクリアしたぞ。あんたはその十倍かかっても二面が手一杯だろうけどな」
「なんですって!」
パズルが解けない腹いせに吠えかかるグレタ。
「解き方があるんだよ。テイタム嬢はそれを知ってたんだ」
自分の寝室までグレタを誘導し、ベッドに、ぽい、と放り出すエイジン先生。
「じゃあ、エイジンもこっちに来て、その解き方を教えて!」
パズルを片手にベッドの上に寝転がり、もう片方の手でベッドをぽんぽんと叩いて添い寝を要求するグレタ。
「俺はリビングに行って、アランとアンヌに屋敷へ帰るように言って来る。すぐ戻って来るから、それまでそのパズルと格闘してろ」
パズルに夢中になっているグレタを寝室に残し、リビングにやって来たエイジンは、
「アラン、アンヌ、今日は遅くまでご苦労様。もう屋敷に帰っていいぞ」
ソファーで寄り添ってイチャついていたバカップルに帰宅の許可を与えた。
「いや、その、ここまで来たら、エイジン先生を信じて、ついて行くだけです」
「で、では、私達は屋敷の方に戻ります。何かあれば連絡をください」
真っ赤になって立ち上がるアランとアンヌ。どうやらアランの方はアンヌとイチャつく事で、さっきまでの不安な状態から回復した模様である。
「ああ、二人でロマンチックな夜の庭園をゆっくりと仲睦まじく帰ってくれ。俺はもう少しやる事がある」
「やる事?」
「今晩中にレンダ家とニールキック家へ、さっき撮った写真と手紙を送り付けなきゃならないんでな」
「今晩は無理でしょう。この屋敷の周りを五十体の人形が見張ってますから」
「見張ってるからいいんだよ。この屋敷から誰も出ていないのに脅迫状、もとい家族を安心させる為の手紙が送られて来たら、俺達のアリバイが成立する」
「でも、エイジン先生も他の使用人も屋敷から外に出ないで、どうやって手紙を出せるんです?」
「外部の人間に協力してもらうんだ」
そう言って、エイジン先生は自分の携帯を取り出すと、
「あ、マリリンさん、起きてましたか? エイジンです。実は今すごく面白いゲームをやってるんですけど、一口乗りませんか?」
生まれついての愉快犯こと、お騒がせ魔女マリリン・ローブローと楽しげな口調で連絡を取り始め、回復したアランを再び不安にさせるのだった。




