▼364▲ あまり子供に聞かせたくない話を声高に主張する女
エイジンが廊下でイングリッドの頭をなでていると、風呂を終えて柴犬の着ぐるみパジャマに着替えたグレタがやって来て、
「エイジン、私も!」
顔の両側に二本の小さな縦ロールを残して他を後ろにまとめた金髪頭を、エイジンに、ずい、と差し出した。
仕方なく、片手でイングリッドの頭をなでながら、もう一方の手でグレタの頭をなでてやるエイジン先生。その姿は二台のターンテーブルを器用に操作するDJの様である。
「もういいだろ。次はあんたが風呂に入れ」
プレイを終えたDJエイジンが、イングリッドに言う。
「エイジン先生が先に入ってください。私は最後にバスルームの片付けをする都合がありますから」
「そうか。なら、先に入らせてもらうが、俺が風呂に入ってる間、ジェーン嬢とテイタム嬢に変な話を吹きこむなよ」
「前フリですか?」
「断じて違う。それとあの子達は頃合いを見て、早めに寝かせてやってくれ」
「子供達を早く寝かしつけて、大人の時間に突入するのですね」
「頼むから、子供達がいる間は下ネタは控えろ」
「おや、私はただ『大人の時間』と申し上げただけですが? 一体何を想像なさったのですか、エイジン先生?」
そんなイングリッドのセクハラをスルーして、バスルームに向かうエイジン先生。
誰に気を遣う事なく大きな風呂で一人、心行くまでゆったりと湯に浸かった後、柴犬の着ぐるみパジャマに着替えたエイジンがリビングに戻って来ると、ジェーンとテイタムはまだ起きていて、特にジェーンの方はグレタと熱心に話し込んでいる真っ最中だった。
「本当に親って腹立つわ! 子供が自分の思い通りにならないと気が済まないんだから!」
「ウチのバカ親なんか、私が思い通りにならないと見るや、悪徳カウンセラーをけしかけて来たわよ! そいつ、ハンマーでドアをブチ破って私の部屋に侵入して来たから、イングリッドと二人でボコボコにしてやったけど!」
一年中反抗期の問題児同士、親の悪口で意気投合したらしい。
主にこの二人がしゃべりまくり、テイタム、イングリッド、アラン、アンヌがそれを生温かい目で見守る形になっている。
「テイタムお嬢ちゃん、こっちにおいで。君にこの手の話は毒だ」
とりあえず、この教育上よろしくない環境から、幼いテイタムを連れ出そうとするエイジン先生。
「テイタムお嬢様をどこに連れて行かれるのですか、エイジン先生?」
その後からついて来るイングリッド。
「寝室だ。もう小学生は寝る時間だろ」
「エイジン先生も同衾されるつもりですか? それはいささか問題が」
「しねーよ。すぐにリビングに戻るから、おかしな気を回すな」
二人がアホなやり取りをしていると、
「寝る前にトイレに行っていいですか?」
それらを全部スルーして、テイタムが口を挟む。
「ああ、こっちだ」
エイジン先生がトイレの前まで案内すると、テイタムはドアの前で着ぐるみパジャマをいそいそと脱ぎ出した。
「待て、ここで脱ぐな」
「上下一体の着ぐるみパジャマなので、脱がないと用を足せません」
「中で脱げ。ほら、結構広くてきれいだから」
エイジン先生がドアを開けてやると、テイタムはパジャマ半脱ぎの状態で中に入って行く。
ドアを閉めてやるとイングリッドが真顔で、
「なるほど。あの着ぐるみパジャマを選んだのは、こうやってごく自然な流れで女子小学生を下着姿にする為の深謀遠慮だったのですね。私がいなければ危ない所でした」
エイジン先生をロリ犯罪者扱いし始めた。
「ねーよ。あんたがいてもいなくても、中で脱ぐように言ってた」
「どうだか。まったく油断も隙もないロリ野郎ですね、エイジン先生」
「テイタム嬢に聞こえてるかもしれないから、そういう俺の事を誤解させかねない冗談はやめてくれ」
「それもこれも、元はと言えばエイジン先生が悪いのです」
「どういう理屈だよ」
「普段私達に手を出さないから、こういう小さな子にそのはけ口を求めてしまうのでは、と不安になるのです」
「意味分からん」
「分かり易くエロ漫画で例えると、『外で幼女を襲わない様に、妹の私がカラダを張ってお兄ちゃんの性欲を受けとめてあげなきゃ!』というアレです」
「すまん、ますます分からなくなった」
「つまり、『普段からちゃんとグレタお嬢様と私を可愛がってください』、と私は声を大にして言いたいのです! 性的な意味で!」
リビングで親の悪口を言い合うジェーンとグレタ以上に、教育上よろしくない事を声を大にして主張するダメイドだった。




