▼363▲ 「女子小学生は最高だぜ!」な写真の撮り方
その後、リビングの天井から吊り下げたプロジェクター用スクリーンの前に、柴犬の着ぐるみパジャマ姿のジェーン十二歳とテイタム九歳を立たせ、
「はーい、二人共笑って笑って! 家出が楽しくてしょうがないって感じで!」
少し離れた場所から三脚の上に固定したデジカメで、この二人の女子小学生の可愛い写真を撮りまくるエイジン先生。
そしてその様子を不安そうに見守るアランとアンヌ。何しろ犯罪の片棒を担がされてる真っ最中である。
「いいよいいよ、二人共! じゃ、次はこれとこれを持って撮ってみようか!」
そんなアランとアンヌの不安をよそに、ジェーンにはA3サイズのフリップを、テイタムには今日の新聞の夕刊を手渡すエイジン先生。
フリップにはジェーンの自筆で、
『お父様、お母様、私達は元気です。警察には絶対通報しないでください』
続けてテイタムの自筆で、
『請求されたお金を用意して、私達が帰るのを静かに待っていてください』
と穏やかな物言いではあるが、不穏極まりない脅迫文が書かれており、
「じゃ、ジェーンお嬢ちゃんはフリップを胸元で持って、クイズ番組で解答する時みたいな感じで。テイタムお嬢ちゃんは新聞の一面をこっちに向けて、記事が確認出来る様に、まっ平らにピンと伸ばして持っててね、そうそう。じゃ、撮るよー! いい笑顔くださーい!」
ついに警察に通報されたらもう言い逃れ出来ないレベルの女子小学生の写真をノリノリで撮り始めるエイジン先生。
「笑いながら、私が中指を立ててるポーズはどうかしら? 父への抗議を表現するの!」
悪ノリが伝染するジェーン。
「それはダメ。下品なジェスチャーは逆効果だ。とことん可愛らしい写真にする事で、『警察に通報したら、この可愛い笑顔がどうなるか分かってるな?』、という恐怖感を与えるのが目的だから」
「うわ、悪魔の発想だわ」
「失礼な。俺はただ、君達をお客としてお迎えしてるだけで、しばらくしたら丁重に家まで送り届けるつもりだぜ?」
「身代金と引き換えに、ね」
「必要経費と言いたまえ」
笑い合うジェーンとエイジン先生。
そこへ夕食の後片づけを終えたイングリッドがやって来て、
「エイジン先生、ちょっとこちらへ」
真面目な顔でエイジンを廊下へ連れ出した。
「何だ?」
「随分と楽しそうに、女子小学生の写真を撮っていましたね」
「自然な笑顔を引き出す為だ。あの子達の表情に恐怖や不安が少しでも認められれば、警察へ通報される危険が高くなる」
「そのまま、『じゃ、二人共、ちょっと上だけ脱いでみようか』、な展開に」
「するか! せっかくの自然な笑顔が一瞬にして恐怖で引きつるわ!」
「挙句の果てに、『宿泊費はお嬢ちゃん達のカラダで払ってもらおうか』、などと家出少女モノの定番の流れへ」
「安心しろ。宿泊費を含めた必要経費は、最終的にあの子達の親から頂く事にする」
イングリッドはエイジンを真っ向からじっと見つめた後で、
「今回も信用していいのですね、エイジン先生?」
と尋ね、
「ああ。協力してくれるな?」
と答えるエイジンに対し、お辞儀をする様にして無言で、ずい、と頭を差し出した。
「何だ?」
「私がこうやったら『なでなで』でしょう!」
「『俺がこうやったらタバコだろうが!』かよ」
呆れつつも、イングリッドの頭を優しくなでてやるエイジン先生。




