▼362▲ 成長した自分の娘すらナンパしかねないドン・ファンな親父
「どうせ小学生が家出なんて長く続けられる訳もないし、いずれは家に帰らなきゃならないんだったら、親に一泡吹かせてやってからの方がいいだろ?」
「親御さんが心配しない様に、って話じゃなかったんですか!」
ジェーンとテイタムにロクでもない提案を吹きこもうとするエイジン先生に、再び悲鳴に近いツッコミを入れざるを得ないアラン。
「そうね、この際だから発狂寸前まで追い詰めてやって。特に父を」
「実の親に何て事言うんですか!」
エイジン先生のロクでもない提案に全力で乗っかろうとするジェーンにも、ツッコミを入れざるを得ないアラン。
「まあまあ、アラン君。他人の家庭の事情をとやかく言う物じゃないぜ」
「限度ってものがあるでしょう!」
「そもそもジェーンお嬢様が耐えきれなくなって家出する位に父親が何かやらかしたんだ。察してやれ」
「あ……すみません、ジェーンお嬢様」
急に声のトーンを落とし、憐れみのこもった目をジェーンに向けるアラン。
「別に私は父から毎日殴る蹴るの虐待を受けてる可哀想な子じゃないわ! 大昔の少女小説みたいに!」
アランの目の意味を察して、少し腹を立てるジェーン。
「い、いえ、決してその様な」
「殴ったり蹴ったりはしないわ。すぐ引っぱたくけど」
「それはよくないです! 実の子、それも小学生の女の子相手に」
「それと、父は気に入らない事があるとすぐ怒鳴るのよ。テストの成績が学年十位以内に入れなかっただけで、『何でそんな事も出来ないんだ! 怠けてたんだろう!』、って具合に」
「それはひどい。学年十位以内って、かなりハードル高くないですか」
「自分は家庭をないがしろにして愛人の所に入り浸ってるくせに!」
「お父さん、最低です」
つい、失礼な事を言ってしまうアラン。なぜか隣に座っていたアンヌがアランの腕を無言でぎゅっとつかむ。私をないがしろにしないでね、とでも言いたげに。
「母も母で若い愛人を作ってるし!」
「……何と申し上げていいのか」
かける言葉が見つからず、困惑するアラン。アンヌはアランの腕をつかんでいた手に、さらにぎゅっと力を込める。私は絶対そんな事しません、とでも言いたげに。
「二人が好き勝手やってるんだから、私にもちょっと位好き勝手する権利はあると思わない?」
「い、いや、それとこれとは……」
家庭の事情をぶちまけて逆切れ気味のジェーン十二歳に、たじたじとなる真面目なアラン。
「で、テイタムお嬢様の方はどうよ? やっぱり親御さんのやる事が許せなくなって家出したのか?」
場の空気を読まず、話をぶった切ってテイタムに質問するエイジン先生。
「いえ、私の場合、もう父の女癖の悪さはあきらめてます」
しれっと、とんでもない事を言うテイタム九歳。
「そんなにひどいのか?」
「ひどいのを通り越して笑っちゃうレベルです。暇さえあれば、片っ端から若い女の人を口説いてますから」
「すげえ親父さんだな」
「私が家出したのは、ジェーンと一緒に遊びに行きたかっただけです。すごく面白そうじゃないですか」
「あの親父にしてこの子あり、か」
しみじみと失礼な事を言うエイジン先生。
「テイタムに『私、これから家出する』って言ったら、『一緒に連れてって』ってせがむのよ。『連れてってくれなきゃ、全部バラすわ』って脅すから仕方なく、ね」
やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめるジェーン。
「おとなしそうな顔して、たいしたお嬢ちゃんだ」
改めてテイタムをしげしげと眺めるエイジン先生。




