▼36▲ 寝床にもぐり込もうとするメイドへの説得
「今日はずっと資料を読みふけってたせいか、やたら目が疲れた。あんたがシャワーを浴びてる間に、俺は先に寝てるからな」
シャワーを浴び終えてバスルームから出て来たエイジン先生は、追い払おうとすればする程居付くイングリッドに懲りたのか、もう「屋敷に戻れ」とも言わなくなっていた。
「はい、分かりました。おやすみなさいませ、エイジン先生」
イングリッドが着替えとタオルと入浴用品を抱えたまま、エイジンに表向きは恭しく返事をする。内心はどうあれ。
「念の為言っておくが、もう俺が寝ている時にベッドにもぐり込んで来るなよ。絶対に」
「前フリですね」
「断じて、前フリじゃないからな。ってか、お前はいつメイドをやめてお笑い芸人になったんだ。とにかく、今晩はちゃんと自分の布団で大人しく寝るんだぞ」
「はい、どうぞ安心してお休みくださいませ」
そう答えて、バスルームに入りドアを閉めるイングリッド。
しばらくして、中からシャワーを使う水音が聞こえて来たのを確認してからエイジンは、
「ったく、聞きわけのない猫を説得してる気分だ」
と呟いて、あくびをした。
猫にとって、「ニャー」と言う返事は決して「了解した」と言う意味ではない。場合によっては「ふーん、だから何?」の意味で使われる事すら珍しくない。
そんな聞きわけのない猫ことシャワーを浴び終えたイングリッドは、そおっと足音を忍ばせて寝室に侵入し、薄暗い中、ベッドの上でエイジンがむこうを向いて寝入っているのを確認すると、やおら着ていたパジャマを脱いで全裸になり、何のためらいもなくベッドの中へともぐり込む。
一度寝床にもぐり込むと決意したメイドに、説得は通じないらしい。




