▼357▲ ティラミスかレアチーズケーキか迷った挙句、たぬケーキを買って来る男
目がチカチカするほどカラフルな布製品が所狭しと並ぶ量販店の婦人用下着売り場、もといガル家の倉庫の一角で、少し顔を赤くして居心地悪そうにしているアランの横で、
「特に透けてもいないし、大事な部分に穴が開いてもいないし、布地面積も十分だし。この中から適当に何枚か持ってけばいいだろ」
下着泥棒よろしく、ワゴンに積まれている女児用パンツを手に取り、ざっとチェックしてはカートのカゴに無造作に放り込んで行くエイジン先生。
「男にとってはいたたまれない空間ですね、ここは」
アランが落ち着かない様子で言う。
「アンヌの買い物に付き合って、こういう所へ一緒に来る事とかないのか?」
「流石にその時は外で待ってますよ。入ったら他の女性客や女性店員に睨まれそうで」
「アラン君だったら女は喜ぶと思うけどな。『あ、若いイケメン発見! 注意すると見せかけてお近づきになっちゃえ』とか」
「何ですかそのひどい妄想は」
「で、アンヌが大激怒、下着売り場は即修羅場」
「やめてください、笑えません」
エイジン先生のひどい妄想に青ざめるアラン。
「よし、パンツはこんなもんでいいだろ。上はパジャマの下にTシャツが一枚あった方がいいかな」
カートを押してTシャツコーナーに移動し、可愛いデザインのモノには目もくれず、戦車や高射砲や手榴弾などの絵が描かれたマニアックなモノばかり手に取り、
「うーむ。どれにしようか悩むな。下手なモノを選ぶと俺のセンスを疑われる」
無駄に熟慮するエイジン。
「センス以前に、どれもあまり女の子向けじゃない様な気がするんですが」
呆れるアラン。
「アラン君も見たろ。今日ジェーン嬢が着てたのは、攻撃用ヘリの絵がプリントされたTシャツだったぜ」
「まあ、確かに」
「テイタム嬢も割と男の子っぽい格好だったし、ジェーン嬢とお揃いなら文句は言うまい。よし、この辺りを持って行こう。次は寝巻だ。普通の庶民的なパジャマでいいんだが」
カートを押して寝巻コーナーへやって来たエイジン先生が、
「いや、意表を突いてコレにするか」
いかにも思いつきで手に取ったモノを見て、
「確かに可愛いですけど、事によると激しく拒絶されるかもしれません」
やや不安そうな顔をするアラン。
そんなこんなで、ようやく家出娘の着替えを選び終えた二人が小屋に戻ると、
「では、エイジン先生が女子小学生の為に丹精込めて選ばれた下着を預からせて頂きます」
いつものエプロンドレスに着替えて待ち構えていたイングリッドに、そのお着替え一式が入った紙袋を引ったくられた。
「下着を強調するな、メインは寝巻だ。とりあえずバスルームに行って、それがお気に召すかどうか、ジェーン嬢とテイタム嬢に聞いてみてくれ」
「しばし、お待ちください」
イングリッドは紙袋を持ってバスルームへ赴き、エイジンとアランがリビングで待っているとすぐに戻って来て、
「やや面くらわれた感じでしたが、もうこれでいい、と妥協されました。エイジン先生に服選びを任せたのが間違いの元でしたね」
と報告する。
「悪かったな。だがやっぱり、女のあんたに任せた方が良かったか」
「そう、子供と言えどもオンナです。なぜもっとセクシーな要素を」
「うん、あんたに任せなくて良かった」
そんなしょうもないやりとりをしている所に、入浴を済ませたジェーンとテイタムが、お揃いの柴犬の着ぐるみタイプのパジャマを着て現れた。
「文句を言える立場じゃないけれど、これは一体何の冗談?」
可愛い着ぐるみとは対照的に、怪訝そうな表情でエイジンに問うジェーン。
「柴犬より三毛猫の方が良かったか?」
「種類の問題じゃなくて!」
エイジン先生のボケにきちんとツッコむジェーン。




