▼356▲ ちっちゃなストーカーとデリカシーのない男
「倉庫に行く前に、ちょっと確認しておきたい事がある」
そう言って、エイジン先生はアランを連れて、倉庫から少し離れた所にある通用口の一つにやって来た。
「このドアは内側から開くが、オートロックになってて、一旦出ちまえば外からは入れなくなるんだよな?」
「ええ、外から入る時は暗証番号を入力する必要があります。三回連続で番号を間違うと、警報システムが作動して守衛がやって来ます」
よく状況が飲み込めないまま、エイジンの問いに答えるアラン。
「もちろんアラン君はここの使用人だから、その暗証番号を知ってるな?」
ドアノブに手を掛けながら尋ねるエイジン先生。
「外に出るんですか?」
「ああ、一緒に来てくれ。面白いモノを見せてやるから」
二人が通用口から屋敷の外に出てドアを閉めると、そこには人気のない夜の道路が屋敷の塀に沿ってずっと延びており、一定の間隔でぽつりぽつりと街灯に照らされているのが、余計に寂しい感じを与えている。
「夜中ともなると、こんな郊外の道には誰もいませんね。少し薄気味悪いんですが」
色々あって疲れ気味のアランが、ややトーンを落とした口調で言う。
「果たしてそうかな? ほら、道の反対側の茂みの中をよーく見てみろ」
エイジン先生がそう言って指差す先へ、恐る恐る目を向けるアラン。夜中に暗い茂みに目を凝らすのは結構怖いものである。
「誰もいませんけど?」
「人じゃなくて、もっと小さいモノだ」
「猫ですか?」
「まあ、見てな」
エイジン先生は道端から小石を拾って、茂みの方に投げつける。
と、石が茂みに到達する前に、ガサガサという音が聞こえ、続いて体長二十センチ足らずの迷彩服を着た兵隊の人形が一体、茂みの外に姿を現した。
「あれは魔力で動く人形です!」
自分の専門分野とあって、薄気味悪さも忘れ、思わず声を上げる魔法使いアラン。
「分かってる。アラン君はナスターシャ・キーロックって知ってるか?」
「有名な人形使いですよ。エイジン先生が今日行った遊園地でも人形劇をやってたはずです。じゃあ、あの人形はナスターシャが?」
「急遽ピーターに雇われて、さっきまでこの屋敷に来てたんだぜ。敷地を捜索する為にあの人形を五十体も持って来たんだが、流石に断った。そしたらピーターの奴、諦めてナスターシャを先に帰らせると見せかけて、こんな風に人形だけ残して屋敷の周りを監視させてやがった、って訳さ」
「あまり、気分のいい話じゃありませんね」
「まったくだ。おーい、そこのバッドなカンパニー」
茂みの外に立ってこちらを見張っている兵隊の人形に、エイジン先生が声をかける。
「あんたのご主人様に伝えとけ。『仕事に差し支えない様にほどほどにしとけよ。あんたの人形劇を楽しみにしてる子供達が一杯いるんだから』、とな」
反応せずに見張りを続ける人形をそのまま放置して、エイジンとアランは再び通用口から屋敷の敷地内に戻って行った。
「ピーターのオッサンは、油断した俺達がこっそり家出娘を逃がそうとする現場を押さえるつもりだったらしいが、その手には乗らねえよ」
倉庫に向かう途中、そう言って悪い笑顔になるエイジン先生。
「でも逆に言えば、あの子達はここに閉じ込められてしまったようなものです。いきなり小屋に踏み込まれたら、もう言い逃れ出来ませんよ」
不安そうなアラン。
「心配するな、こっちも策はある。それより、アラン君に確認しておきたいんだが」
「何です?」
「小学生の女の子って寝る時ノーブラでいいんだよな? テイタム嬢はともかく、ジェーン嬢はもう着けてたみたいだったんで」
「エイジン先生!」
真っ赤になって声を荒げるアラン君。




