▼350▲ 女子小学生からの声かけ事案の発生
ライオンのたてがみを思わせるボリュームたっぷりの肩下まである波打つ明るい金髪に、お人形さんの様にくっきりした、それでいて一旦言い出したら聞かない強情さが見てとれる顔、胸に大きく攻撃ヘリのシルエットが描かれた白いTシャツにオリーブ色のショートパンツ姿の、すらりとした十二歳の女の子がジェーン・レンダ。
つくしんぼの先の様な茶がかった金髪のショートヘアで、どこか落ち着きのある男の子っぽい地味な目鼻立ち、白地に赤格子の半袖シャツにデニムのオーバーオール姿の、ちっちゃな九歳の女の子がテイタム・ニールキック。
二人共遊園地で見た時と同じ格好ではあるが、車の下に隠れていたせいで、いささか前の方が汚れている。
が、今はそんな事を気にしている場合ではない。
ジェーンはテイタムをかばう様に前に出て、
「わ、私達、悪者に追われてるの! お願い、かくまって!」
臆面もなく見え透いた小芝居を必死に演じ始めた。
「そういうのはコントのギャグとしてはありだが、本気でやってたら間抜けにも程があるぞ、ジェーンお嬢様」
しかし、小芝居に付き合ってくれない意地悪なエイジン先生。
「ほ、本当よ! その悪者をまく為に、あなた達の車のトランクに潜り込ませてもらったの!」
「他人の車のトランクに勝手に潜り込む方がよっぽど悪者っぽいんだが。それと、悪者ってのはピーターの事か? それなら、もうウチに来てるぜ」
「ピーターが!?」
「ああ、仕掛けられた罠を早々に見破って、お昼頃にはもうあんた達二人を遊園地の防犯カメラで監視してたそうだ」
「な……!」
「あのオッサン、もっさりしてるが、実は相当切れ者だろ?」
「ええ、ピーターは父が無理を言って警察から引き抜いた元敏腕刑事よ。でも、まさか、こんなに早く見つかるなんて……」
小芝居をやめて、素で返答してしまうジェーン。
「話してみた限りじゃ、あんた達が束になったって敵う相手じゃない。悪い事は言わんから、もう観念して家に帰った方がいいぞ」
「嫌よ! ねえ、私達を見逃して、お願い!」
必死になって懇願するジェーンの表情を少し探る様に見てから、エイジン先生は、
「ま、どんな形にせよ、取引先のお嬢様がこうしてわざわざ訪ねて来たのに、お茶の一杯も出さないのも薄情な話だ。よし、しばらくピーターにはあんた達がここにいる事を黙っててやる」
ややこしい事態をさらにややこしくする提案を持ち出した。
「かくまってくれるの?」
ジェーンの表情が、ぱあっと明るくなる。
「ああ、これから約一時間、屋敷の使用人達を動員してあんた達を探し回らせる事になるが、その間、俺の住んでる小屋に隠れていてくれ。そこは俺達が探すフリだけするから」
「ちょっと待って、何考えてるのエイジン!」
突然の提案に想像力が追い付かず、訳が分からなくなったグレタが口を挟むも、
「一応、取引先のお嬢様だぜ。無下に扱う訳にもいかないだろ? ちょっと帰すのが遅くなるだけだ」
何か企んでいる様な悪い笑顔で答えるエイジン先生。
「だったら、その事をちゃんとピーターに説明すればいいじゃない!」
「説明したら、どうしてもすぐに帰さなきゃならなくなる。が、その前に、この子達からの話も聞いておきたい。一方の話だけ聞いて物事を判断するのは、騙される元だ」
「じゃあ、ピーターはどうするの?」
「『二人を探したけど見つからなかったから、他を当たってくれ』って言って、今日の所はお引き取り願おう」
ますます悪い笑顔になるエイジン先生。




