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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽おまけ3△ 古武術詐欺師は悪役令嬢を巻き込んで今日もよからぬ事を企む

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▼348▲ 夜中に庭をうろつく五十体の人形

 しばらく自分の車を買い替えるべきか否かについて論じた後、ようやくピーターは話を今回の事件に戻し、


「トランクってのは意外と密閉されてないんで、中に人が閉じ込められても普通は窒息しないんです。それと最近の車のトランクには、緊急脱出用のレバーが内側に付いてるもんなんですが、この車もそうじゃないですか?」


 防犯カメラに映っている車の画像を指差しながら、イングリッドに尋ねた。


「はい。トランクの蓋の内側に、暗闇でも目立つT字型の脱出用レバーが付いています」


 淡々と答えるイングリッド。


 ピーターは深く頷き、


「これで二人のお嬢さん方が、安心してトランクに潜り込める条件が揃いました。後は勇気を出して実際にトランクの中に潜り込んで中から蓋を閉めれば、すぐにあなた方三人が車に戻って来て、そのままこちらへ運んでくれるという寸法です」


 車のトランクを使った逃走方法の解説を締めくくった。


「小学生の女の子が二人、真っ暗闇の中で一時間近く、運転中の車のトランクにじっと隠れてたのか。本当に大したタマだよ。将来が楽しみだ」


 呆れるのを通り越して感心するエイジン先生。 


「説明が長くなりましたが、そんな訳で、あたしもあなた方の車を追って、すぐにこちらのお屋敷にやって来たんです。おそらく今頃は二人共トランクから出て、ガレージに潜んで、敷地の外に脱出する機会を窺っているんじゃないかと思います。そこでお手数なんですが」


 ピーターは一旦言葉を切って、ソファーから少し身を乗り出し、


「これからあたしを、その車が置いてあるガレージまで案内して頂けませんか? すぐ済みますから」


 もっさりとした口調でイングリッドにお願いした。


「いや、それには及ばない。これから俺達三人でガレージに行って、二人がいないかどうか見て来てやるよ」


 イングリッドが答える前に、エイジンがそう言ってソファーから立ち上がる。


「いや、わざわざ皆さんで行かれなくても。誰か一人、あたしをガレージまで案内してくださればいいんですが」


「もしあんたがここに来ている事を二人に気付かれたら、必要以上に警戒されて捕まえにくくなるぜ」


「まあ、確かに」


「それと二人の家出娘は、駐車場の数ある車の中から、わざわざ俺達の車を選んでトランクに潜り込んだんだろ? 追っ手のあんたより俺達の方が交渉の余地ありと踏んで、すんなり向こうから出て来るかもしれん」


「なるほどねえ」


 ピーターは手を口元に当てて少し考え込んだ後で、


「じゃあ、すいませんが、それでお願いします。もし見つかったら、こちらへ連れて来てください」


 と妥協した。 


「見つからなかったら?」


「その時は申し訳ないんですが、こちらのお屋敷の敷地内を隈なく捜索する許可を頂けませんかねえ」


「いくらなんでも、そこまでは許可出来ねえよ。流石に五十人近い捜索員に一晩中敷地内をウロウロされたら迷惑だ」


「いや、そこまで失礼な事は致しません。その為に、このナスターシャさんにわざわざ一緒に来てもらった訳で」


 ピーターは、ずっと黙って話を聞いていたナスターシャの方に向き直り、


「ナスターシャさん、こちらの皆さんに例の物を見せてもらえませんか?」


 とお願いする。


「はい、それでは」


 ナスターシャはソファーの後ろに置いてあった茶色い革製の大きな四角い旅行鞄を、細腕でよっこいしょと持ち上げ、テーブルの上に置いてから蓋を開け、


「二人のお嬢さんの捜索は、このお人形さん達にやってもらいます」


 中にぎっしり詰まった、濃緑色を基調とした迷彩服姿の兵隊の人形を見せた。


「何このバッドなカンパニー」


 目を丸くするエイジン先生。


「魔力で動く、約十分の一スケールの兵隊の人形が五十体あります。起動した後、人形達に写真を見せて、『この二人のお嬢様を探しなさい』、と命令すれば、後は自動的にスタンドアローンで任務を遂行してくれます。この広さの敷地でしたら、一時間もあれば全捜索が終わるでしょう」


 眠そうな顔のナスターシャが、さも何でもない事の様に説明する。


「この大きさなら、あまりこちらのご迷惑にもならないと思うんですが、いかがです?」


 人懐っこそうな笑みを浮かべながら問うピーター。


「大きさの問題じゃない。ってか、これだけの人形が夜中に庭をウロウロしてる方が怖えよ!」


 ピーターとナスターシャのズレた感覚に、思わずツッコまずにはいられないエイジン。


「ダメですか」


「ダメです。もしガレージへ行って二人が見つからなかった時は、ガル家の使用人を動員して敷地内を捜索させるから、それでいいだろ?」


「ええ、そうして頂けるなら助かります。とんだ大ごとになってしまって、本当に申し訳ありませんが」


「じゃ、あんたらはちょっとここで待っててくれ」


 エイジン先生は、ピーターとナスターシャを応接間に残し、グレタとイングリッドを伴ってガレージに向かった。

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