▼346▲ 猫バンバンしても逃げない猫
「ああ、間違いなく俺達だ。よく撮れてるなあ」
エイジンが感心しつつ、あっさり認めると、
「まあ、そんな訳で一応確認の為に、皆さんには着替えないまま来て頂いた次第です。ご協力感謝します」
ピーターは軽い笑みを浮かべつつ、礼を述べた。
「それにしても、よくこの画像だけで俺達の所にたどり着けたな。ここには映ってないが、車のナンバーから所有者を割り出したのか?」
「いやあ、実を言うとナンバーを調べるまでもなく、捜索員のほとんどが、こちらのグレタさんのお顔を存じ上げておりましてね。何と言っても取引先のご令嬢ですし、その、社交界でも有名な方ですから」
「悪名高い『ガル家の狂犬』と仰りたいのね?」
グレタが少し不機嫌そうな表情で口を挟む。
「いえいえ、とんでもない、こんな美しいお嬢さんを狂犬だなんて」
あわてて苦しいフォローをするピーター。
「今はちゃんと躾けてあるから大丈夫だ。咬みつかないし、ちょっと吠える位は大目に見てやってくれ」
「エイジン!」
フォローになってないフォローをするエイジンに吠えるグレタ。
「で、あんたは、俺達がジェーン嬢とテイタム嬢を車に乗せてこの屋敷まで連れて来た、と考えたんだな?」
吠えるグレタをスルーして、ピーターに尋ねるエイジン先生。
「はい。事前に打ち合わせていたのか、今日遊園地で会ってそういう話になったのかは分かりませんが。いずれにせよ、仕事上の付き合いのあるガル家のご令嬢が、レンダ家のご令嬢をお客として屋敷に招くのは、それほど不自然な話じゃないと思いまして」
「残念だが違う。俺達は事前に何の打ち合わせもしてないし、後で防犯カメラの映像を確認すれば分かると思うが、そもそも遊園地であの二人とは一言も会話していない。もし、向こうから言ってくれれば、『じゃあ、ウチに遊びに来ない?』、って流れになったかもしれないがね」
「そうですか。二人があなた達に招かれたのではないとすると」
ピーターは額に手を当てて、少し間を置き、
「勝手に車に乗り込んじゃったみたいですねえ」
そう言って苦笑した。
「エンジンルームに潜り込む猫かい。エンジンを掛ける前に、ボンネットをバンバン叩くべきだったかな」
猫バンバンを提唱するエイジン先生。
「エンジンルームは小学生には狭過ぎますよ。潜り込むとすればトランクの方です」
「じゃあ、ボンネット叩いても無駄か。それにしても、猫ってやつはどうして狭い所が好きなんだか」
猫と取引先のご令嬢を一緒くたにするエイジン先生。




