▼345▲ 脱走のプロの手口
「最後の最後で待ち伏せを見破ったか。大したお嬢ちゃん達だ」
妙に感心するエイジン先生。
「いいえ、防犯カメラの映像を見る限り、二人共こちらに気付いた様子はありません。気付かれない様に、出口付近一帯に見張りは一切配置してませんでしたし」
それに異を唱えるピーター。
「じゃ、待ち伏せしている場所に向かわないで、別の方へ行ったんだろう」
「もちろん、その場合も想定して手は打ってあります。出口からまっすぐ駅に行く大通りに向かわず、左に進むとバス・タクシー乗り場があるんですが、そこには見張りを置いてましたし、右に進むと一般客の駐車場なんですが、その周囲の道もしっかり見張らせていました」
「周囲? 駐車場の中は見張ってなかったのか?」
「駐車場は遊園地に隣接してるんで、園内から丸見えなんですよ。捜索員は面が割れてるし、見覚えがある車が駐車してたら、それこそ一発でバレます」
「ああ、納得」
「二人の子供が遊園地を出るまでは、何としてもこちらに気付かれない様にしないといけないんでね。それがアダになった訳です。何分待っても待ち伏せ地点に来ないんで、ついにこちらから出口の方に捜索員を向かわせたんですが、どこにも二人の姿が見えません」
「考えられるとしたら二つだな。もう一度入園したか、駐車場のどこかに隠れたか」
「入園の方はあり得ません。園内から入口付近を見張ってましたから」
「じゃあ、駐車場だ。その周囲は見張らせてあるから袋のネズミだし、五十人も捜索員がいれば人海戦術ですぐに見つかるだろう」
「ところが、駐車場のどこにも二人の姿は見つかりませんでした。文字通り消えちまった訳です」
お手上げ、とばかりに両手を軽く上げるピーター。
「となると、考えられるのはただ一つ、『誰かが車でジェーン嬢とテイタム嬢を外に連れ出した』、って事か」
「はい、それしか考えられません。あたしは、もう一度遊園地の管理事務所に戻って、駐車場の防犯カメラの記録映像を見せてもらいました。すると案の定、そこに出口を出たばかりのジェーン嬢とテイタム嬢が映ってたんです」
「じゃあ、どの車に乗ったかも分かるな」
「残念ながらその瞬間は映ってませんでした。二人が向かったと思しき場所を映す防犯カメラに、突然クレープの包み紙が覆いかぶさって、三分ほど映像が見られなくなってたんです。それ以降、二人の姿はどの防犯カメラにも映ってません」
「意図的にかぶせたんだな。どの車に乗ったか分からない様にする為に」
「後で駐車場を調べたら、そのクレープの包み紙が防犯カメラの近くに落ちてました。包み紙をとめる為の粘着力の弱いシールを使って、防犯カメラにくっつけたんでしょうな。そうすれば、放っておいても自然に取れますし」
「監視員も、『風で包み紙がしばらくの間くっついてたのか』、位で済ませると見越してか。って、どんな脱走のプロの手口だよ!」
「まったく大したお嬢さん方です。ですが、夜になって客もかなり減っていた事もあって、そこの防犯カメラには五台しか車が映ってませんでした」
「じゃあ、あとはその五台の車を調べれば解決だ」
「ところがですねえ、その内の一台は、あたしらがこの事実を突き止める前に、駐車場を出て行ってしまったんですよ。残り四台については、それぞれの車の持ち主が戻って来た時にお願いして、中を調べさせてもらったんですが、全部ハズレでした。つまり、間一髪で逃げられたって訳で」
「まさか、その出て行った車っていうのが」
「はい、あなた方が乗ってた車です」
ピーターはそう言って、よれよれのコートの内ポケットから四つに畳んだA4サイズの紙を取り出し、テーブルの上で広げて見せた。
そこには今日三人が移動に使ったガル家の車が映っており、ちょうどイングリッドが後部座席のドアを開け、グレタとエイジンが中に乗り込もうとしている所だった。
「防犯カメラの映像を拡大印刷してもらいました。ここに映っているのは、あなた方三人ですね?」
分かり切った事を質問するピーター。
そもそも目の前にいる三人は画像と寸分違わぬ同じ格好をしているので、間違えようがない。




