▼341▲ 藪の中の三人の証言者
無事運転を終え、車をガレージに収納して小屋に戻って来たイングリッドが、
「たった今、屋敷の方から、私達三人にすぐ来て欲しい、という連絡がありました。レンダ家お抱えの私立探偵が来て、『緊急を要する件に関して、内密に相談したい』、と頼んでいるそうです」
一足先にリビングでくつろいでいたグレタとエイジンに、そう告げた。
「レンダ家って、レンダ銀行のレンダ家? ウチのバカ親が金融トラブルにでも巻き込まれたの?」
身内の不始末を想像しつつ、怪訝そうな表情になるグレタ。
「手形の不渡りでも出したのか? それともキャッシュカードの暗証番号を三回連続で間違えて取引停止を食らったのか?」
横から混ぜっ返すエイジン。
「いえ、金融トラブルではなく、今日私達が行って来た遊園地について質問したい事があるそうで」
「遊園地? 何よそれ?」
想像力が追いつかなくなり、きょとんとするグレタ。
「まあ、行ってみようぜ。銀行と言えば金だ」
金の匂いを嗅ぎつけたエイジン先生は、ちょっと乗り気の様子。
「エイジンがいいなら行くわ。でも、その前に着替えないと」
遊園地から帰ったばかりで、まだTシャツにデニムのショートパンツという格好のグレタが着替えに行こうとするのを、ほぼ同じ格好のイングリッドが、
「いえ、『出来れば、遊園地に行った時の服装のまま来て欲しい』、との事で」
と制する。
「え? 妙な要求ね。何が何だかさっぱりよ」
ますます想像力が追いつかなくなるグレタ。おやつの隠し場所を忘れてしまい、首を傾げる子犬の様。
「遊園地で、銀行に運ぶ途中の売上金が強奪されたのかもな。で、俺達がその容疑者として疑われてたりして」
片や、想像力を不穏な方向に広げまくるエイジン先生。
「私達を逮捕するつもり? 逆に名誉毀損で訴えてやるわよ。銀行の経営が傾く位賠償金を取ってやるわ」
「今のは、例えばの話だ。それに『内密に相談したい』って言うからには、いきなり逮捕はないだろ。ともかく行けば分かるさ」
遊園地を存分に遊び倒す為のラフな格好のまま、イングリッド、グレタ、エイジンは小屋を出て、同敷地内のガル家の屋敷へ赴いた。
「そう言えば、屋敷の方に来るのも久しぶりだな。前に、イングリッドを使用人入口の前まで送って行った時以来か」
広い玄関ホールに足を踏み入れたエイジンが言う。
「あの時は送ると見せかけて、私を庭の植え込みの陰に押し倒して乱暴しようとしましたね、エイジン先生」
しれっと記憶を改竄するイングリッド。
「アホな事をやらかすあんたを屋敷へ押し込む直前に逃げられた挙げ句、小屋に舞い戻られて、そのまま住みつかれた記憶しかないんだが」
イングリッドの偽証に異議を唱えるエイジン先生。
「私はこの屋敷より、あの小屋でエイジンとイングリッドと一緒にいる方がいいわ」
どちらの証言もスルーして、自分の願望しか口にしないグレタ。
この三人に何かを尋ねる人間は、真相にたどり着くまで色々苦労するかもしれない。




