▼339▲ 夕方には三本足になるバカップル
特にアクシデントに巻き込まれる事もなくジェットコースターを普通に楽しんだ三人は、そのまま回転ブランコ、ウォーターライド、自由落下装置、巨大な船の振り子と、絶叫アトラクションを渡り歩き、
「二人共、立て続けで疲れてないか? 休憩取らなくて大丈夫か?」
エイジン先生が気を遣って尋ねたが、
「全然平気よ」
「問題ありません。後、二、三回乗っても大丈夫です」
グレタとイングリッドは普段から鍛えているだけあって、この位ではビクともしないらしい。
「じゃあ、このまま強行軍を続行するぞ」
さらに一行がコーヒーカップ、メリーゴーランド、ゴーカート、スカイサイクル等、残りのアトラクションを一つ一つ巡って行き、全てを制覇し終えた時には、ほとんど日も暮れかけていた。
夕焼けに赤く染まる空の下、オープンカフェの丸いテーブルを囲んでクレープを食べながら、今日の感想を思い思いに述べ合う、エイジン、グレタ、イングリッド。
「結局一日でフルコンプしたな。いい大人が子供達に混じって、どれだけ夢中になってたんだか」
「いい大人が夢中になったっていいじゃない。今日は楽しかったわ!」
「資料写真もたくさん撮れましたね。で、これからどうなさいます、エイジン先生?」
イングリッドの問いに対して、
「帰る前に、もう一度観覧車に乗ろうぜ。観覧車から見る夜景はまた格別だからな」
と提案するエイジン。
「いいわね! ロマンチックだわ!」
最後の最後でテンションがますます上がるグレタ。
「なるほど。暗いのをいい事に過激なエロ行為に及ぶ観覧車内のバカップルを観察し、そのムードに流される形で私達も」
「そっちの夜景じゃない」
ブレないイングリッドに即ツッコミを入れるエイジン先生。
「近くで子供達が聞き耳を立てていないとも限らないし、そういう発言は控えろと何度言ったら」
そう言って辺りを見回すと、少し離れたテーブルに女の子が二人座ってこちらを注目しており、エイジンと目が合った瞬間、大きい方はさっと目を逸らし、小さい方はそのままにっこりと微笑み返した。
「ほら、聞かれてるし」
「失礼しました。あの二人の内の一方は、昼間バンジージャンプを飛んでいた子ですね」
「大人がいない所を見ると、子供二人だけで遊びに来てたんだろうな。もし親が一緒だったら、『痴女なんか見ちゃいけません!』って怒られてるぞ」
「失礼な。誰が痴女ですか」
そう言って、デニムのショートパンツからすらりと伸びた生足を、エイジンの膝の上に、どん、と乗っけて来るイングリッド。
エイジン先生はその足首をつかんで席から立ち上がり、
「じゃ、そろそろ行くか」
そのままスタスタと立ち去ろうとする。
「片足だとすこぶる歩きにくいのですが、エイジン先生」
一本足でピョンピョン飛びながら付いて来るイングリッド。
間違いなくこの場で一番羽目を外しているこのバカップルを、二人の女の子は生暖かい目で見ていた。




