▼333▲ 元気を集めて作った玉の効能
大魔王コッポラとポラン王子のタイマン勝負は次第にヒートアップして行き、ヒートアップし過ぎた為か、やがて二人共舞台からふわりと浮かび上がり、そのまま空中戦へと移行する。
「見せてもらおうか、王子の性能とやらを!」
「そんな大魔王は修正してやる!」
どこかで聞いた様な痛い台詞を口にしつつ、プラネタリウムの様に星空が映し出された暗い天井を背景にして、観客達の頭上を縦横無尽に飛び回りながら、刀身が光る剣で斬りつけ合ったり、レーザー光線を乱射し合ったりする大魔王と王子の戦いに、子供も大人も首が痛くなるのを忘れて上を向いたまま大熱狂。
もちろん定期的に、
「王子! 助けて! 風船が! 風船が!」
舞台の方で一人取り残されているソーニャ姫から救援を求める叫び声が入り、ポラン王子はその都度戦いを中断してそちらへ戻り、姫の頭上の大きな粉入り風船をスッと持ち上げて針付き鉄道模型を通過させる地味な作業も怠らない。その姿はまるで、巣でピィピィ鳴きながら待っているヒナに餌やりに帰って来る親ツバメの様。
「やるなポラン王子! だが遊びはここまでだ!」
そう言って、空中に浮かんだまま大魔王が白衣とガスマスクを脱ぎ捨てると、中からビジュアル系を意識したと思しき黒い派手な衣装を身にまとった、細身で背の高い強面のイケメンが現れ、女性客から歓喜の声が上がる。
「仮面の下は美形」は基本。これを外すと女性読者からクレームが殺到します。某少年向け漫画家(談)。
「真の姿に戻った我の、世にも恐ろしい大魔法を思い知るがいい!」
大魔王が両手を上げてバンザイの格好をすると、手の先に青白く光る巨大な玉が現れ、
「くらえ!」
その巨大な玉を、観客席の上空から舞台に向かって勢いよく放り投げる大魔王。
「この命に代えても、ソーニャ姫は守る!」
飛んで来る玉から身を挺して姫をかばおうとする王子。
だが玉は王子と姫から大きく逸れ、事もあろうにレールを走行中の鉄道模型に当たってしまった。大魔王コッポラ、ここぞという場面でまさかの大暴投。
否、大魔王はノーコンに非ず。最初から狙いは鉄道模型の方だったのだ。
玉から魔力を吸収した鉄道模型は青白く輝き――なんと走行速度が十倍に跳ね上がった。
結果、王子はもう大魔王との戦いに戻る余裕すらなくなり、高速でビュンビュン走る鉄道模型に風船を割られない様、ソーニャ姫の頭上でただひたすら風船を持ち上げていなければならなくなる。
「しまった! これでは身動きが取れない!」
ポラン王子、世にも間抜けな格好のまま絶対絶命の大ピンチ。
「いや、その風船は床にでも置いとけよ、王子」
そんなエイジン先生の小声のツッコミを無視して、いよいよ戦いは最後の局面を迎える。




